美味しいパンとチーズと赤ワインの夢
おへそベーカリーのパンが美味しい。
私は小麦の味がドッシリあるパンが凄く好きで、硬いのも酸味があるのも好き。そういうパンをギリギリ噛みしめて食べると、得も言われぬ幸福を感じる。やがて歯が無くなったら楽しめなくなる楽しみだから、今のうちに思う存分噛みしめたい幸福だと思っている。私のそういう嗜好のツボにおへそのパンはドはまりで、現在ガッチリハートを掴まれている。結構良い御値段がするパンなのだが、他ではなかなか味わえない味なんだよなあ*1。
本日世羅に行く機会があった。今月はお小遣いが結構残っていたので*2、予算を気にせず思うさまおへそのパンを買った。「スライスして温めてお召し上がり下さい」という注釈にもかかわらず、軽く温めたら丸ごとかぶりついて、ギリギリ噛みしめて食べる。美味しい。ここのパンはサンドウィッチにしたら凄く美味しいと思う。ドライいちじくと蜂蜜の入っている甘いパンは、塩気の効いたチーズとあっさりしたハムが良いかな。プレーンなパンには、チーズとハムとちぎったレタス、それにバジルかルッコラをアクセントで加えて。それとも刻んだオニオンを混ぜたツナに塩漬けのオリーブかな。後は赤ワインがあれば……もう最高だな! でもサンドウィッチにしなくても、このパンに美味しいチーズ、そして美味しい赤ワインがあればそれだけでも十分だとも思える。
パンには「自分はこのパンが好き」とわかるくらいはっきりした嗜好を持っているのだけど、チーズは種類が多過ぎてわからないし、赤ワインは悪酔いするので*3フルボトルは到底空けられない。チーズと赤ワインの見立てができて、赤ワインを飲める協力者が要る。そんなピンポイントな嗜好に合った協力者を見つけられるかは甚だ疑問だし、しかもこのCOVID-19流行下で他者と飲み交わすなんて夢のまた夢だし。色々ハードルの高い願望になっている。他者と飲み交わすなんて古代から行ってきた行為だろうに、それが禁断の行為のような扱いになってしまっている今は、本当に嫌な時期だ。
犬の価値観
排泄後の犬の糞を拾っていると、犬が変な反応をすることはよく知られている。私の犬も、糞を拾う私に当初は引いていた。最近はうっすら笑って流し目で糞を拾う私を見ている。その様子に「うんこ拾うのホントに好きだよね~、あ、個人の嗜好だし私は別に良いと思うよ?」と言われているような、好事家に向ける視線を感じて、「別にうんこを拾うのが好きなわけではない」と弁解したくなるのだった。他にも、困惑したり、ヘラヘラしたり、嫌そうな顔をしたり。犬の価値体系から見ると、糞を拾うというのは、ちょっと変わった行為らしい。
そのように思うようになってから、犬の糞を片付けるように求める看板のうち、犬が糞を拾っているパターンの看板に出くわすと「看板のこの犬は、犬から見たら、変態の類なんだろうな……」と思う癖がついてしまった。
参考資料:
今日は憂うつ
神戸市は7日、同市長田区大日丘町3の介護老人保健施設「A(引用者伏字)」で4月14日以降、入所者97人(定員150床。引用者追記)、職員36人の計133人が新型コロナウイルスに感染する大規模クラスター(感染者集団)が発生し、うち70代以上の入所者25人が死亡したと発表した。(後略)
高齢施設で集団感染、13人死亡 8人は入院できぬまま (朝日新聞)
大阪府門真市の有料老人ホーム(定員44人)で新型コロナウイルスの集団感染が起き、入所者40人が感染し、60代~90代の男女13人が死亡した。そのうち8人は、入院先が決まらないまま亡くなっていた。門真市や保健所などへの取材でわかった。(後略)
入所利用者の6-9割が感染というだけで全国ニュースレベルの大事故なのに、死者2ケタとは大変なことである。しかもそれが同日二か所発表。多分、もう入所者の大規模感染は大阪・兵庫ではざらに起きていて、それだけでは報道の価値がないのだろう。亡くなった人、スタッフ、家族のことを考えると胸が痛む。特に自分が以前高齢者施設で働いていたこともあり、スタッフのことを考えると胸が痛い。自分がプロとして守らなければならないと認識している利用者が苦しんでいるのに、何もできず亡くなっていくのを見守るしかないのを考えるだけでたまらない気持ちになる。そしてスタッフも感染のリスクに晒されているわけだし。
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仕事終わりに運転しながらニュースを聞いていたら、Aセクシャルの人(生物学的には女性)の話が流れてきた。珍しいのは、この人が島根の限界集落にある町役場で働いていたこと。島根の田舎といえば「ダビデ像にパンツを履かせろ」と住民から注文が出たことがニュースになったり*1、とある美術館*2に当時30代の私が行こうとしたら「あそこは裸の女の人の絵ばっかりですよ」とタクシー運転手にマイルドに止められたり、そういう御土地柄である。古風な男女観と、異性愛以外の存在を認知すらしていないと思われる土地で、心穏やかに暮らしていけるのか? と思ったらやっぱり無理っぽかった。「早く良い人見つけて、結婚しな」とか地元のおいちゃんにグイグイ言われてる。「恋愛感情がない、結婚に興味がない」と言う当人の主張は、異文化過ぎておいちゃんには絶対わからないだろう。「わからないから放っておく」というのも、田舎の人間関係だと難しいだろうしなあ。Aセクシャルの人は「言われるのはムカつくけど、皆優しくしてくれる」と言っていた。そりゃ言われるに決まってるだろ、パーントゥの祭に行って「泥つけられた!」と怒るくらい、ムカついている意味が分からん。ただ、この人が20代の生物学的女性だというところも、かまわれる重要な要素になっていると思う。この人が30代後半~40代後半になった時、周囲からの扱いはどんな風になっているだろう。そのまま行ったら孤立してるんだろうけど、あと10-15年時間はあるわけで、同じような若い人が増えていたりして、状況が変わっていると良いなあ。
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その後、菅さんの会見と西村大臣&尾見会長の会見を聞く。菅さんは相変わらずだし、尾見会長は声がガラガラだった。
「北欧の旅―カレル・チャペック旅行記コレクション」
「白い病」に引き続きチャペックの本。最初は寝つけない時のお供に少しずつ読んでいたのだけど、小船に乗せられて白夜の極地へ向かう行程あたりから面白くなってくる。小船への揶揄と愛を込めた記述。波が甲板まで入ってくる夜に交わされる夫婦の会話は、私自身が経験したシベリア慰霊旅行*1のことを思い出させる。そして、静謐な美しさに満ちたフィヨルドと白夜の記述に息を呑む。フィヨルドの簡単な線画が途中に入っており、文章と一緒にこの挿絵を見ると、鮮やかに情景が浮かぶ仕掛けになっている。そうか、文章でこんなに美しく描くことができるんだな、こういうタイプの文章を長く読んでこなかったな、と思う。一時期から言い回しが大袈裟に感じられて鼻につき、小説を読めなくなっていた。また読めるようになったんだな。すごく嬉しい。
*1:シベリア抑留で亡くなった人達の慰霊に回る旅行に過去3回ほど行っている。シベリアのとんでもない僻地に行くので、一日中デコボコ道を車で揺られたり、水しか出ない建設中のホテルに泊まったり、快適とは言い難い道中を過ごす。私は「旅行」ではなく「合宿」だと思っている。
多分戦時下ってこんな感じ
ニュースを流しながら車を運転していたら「大阪ではトリアージが行われている」との報。入院を要する状態の感染者数が多過ぎて、特に重篤な(そして恐らく、助かる可能性のある)人を優先的に入院させているらしい。トリアージが行われるって非常時下にあるということなんだけど、どうしてこんなにアナウンサーは平静なトーンで話しているのだろう。状況としてはかなりヤバいんだけど、ヤバさの実感は湧かない。でも大分ヤバいぞこれ。広島は大阪と福岡の影響を受けるので、大阪が酷い状況になれば、2週間~1か月後には広島も同様の事態に陥りかねない。
ふと、2018年の西日本豪雨災害の時、トンネルの手前で立ち往生して一夜を明かすことになった時のことを思い出した。あの時も「これはヤバいんじゃないか」とうっすら思いつつ、しかし実感はあまりなかった。9時間くらい渋滞と迂回路を彷徨ったあげく通行止めで立ち往生したが、車の中はいつもと変わらなかった。「これ、遭難しかかっているんじゃないか」と気づいたのは、出発から7時間くらい経ってからだったような。
なんかこうやって平時と変わらない生活を送っているけど、ジワジワと不安の種は迫ってくる。でもどうしようもない。そして「ヤバいな」とは思うけどイマイチ実感はわかない。空襲を受ける前の戦争の実感って、こんな感じだったんじゃないかと少し思う。