セイレーン

 昨日から二日連続で雨。雨の中散歩に行くと、雨に濡れて泥がはねた犬を拭く手間がかかるし、散歩中は合羽が暑くて不快である。できるだけ雨の切れ間を狙って散歩に行くようにしている。雨雲レーダーとにらめっこして急いで出ても、パラつく雨にやきもきする。十分な運動量は確保できずとも、排尿排便は済ませてやりたい。やきもきしながら、排泄しそうでしない犬を見守ることになる。

 地面のにおいを嗅いでいた犬が排便態勢に入りそうになるかと思ったら、急に後方を振り返って凝視した。遠くから女の歌声がする。姿はなかなか見えないが歌声は近づいてくるので、ここから結構距離がある様子。犬は凝視したまま微動だにしない。夜明け早々の時間帯に大きな歌声、修行者か?

 犬と一緒に歌声の方向を見守っていると、女子高生っぽい女性がランニングしながら現れた。手に持ったスマホで音楽を流しながら、その音楽に合わせて歌っている。熱唱である。犬と一人に見守られていても、女は歌を止めない。歌いながらそのまま私たちの前を通り過ぎて行った。

 女が去った後、犬が私の顔を見た。あれは何なんだ、と犬の顔に書いてあった。犬よ、色々いるんだよ。そして排便のタイミングは完全に逸した。