Nick Cave - 20,000 Days On Earth at 名古屋シネマテーク(今池)

 穏やかな映画だった。
 興味深かったのはケイヴと神様の関係。ドラッグ常用者だった頃は教会に行ってからドラッグを使っていたこと、妻となった女性から「教会に行くのは止めて」とドラッグを止められたこと。「ライヴでは完璧な姿になることができる」「一人の客に語りかけるつもりで歌っている」という言葉には、ライヴの時、彼は自分自身が神になっているのかもしれないと思わせた。そして、「一人に語りかける」という言葉は、父親との印象深い思い出である「『ロリータ』の一節を読み聞かせてくれた」エピソードと重なる。観客と彼の関係は、彼と彼の父親(教会関係者だった)の関係の再現であると思わせるというか。ケイヴと神の関係は、ケイヴと父親*1、ケイヴとライヴの関係と密接にリンクしている。ケイヴは自身を無神論者だと語ったが、彼の生活史とライヴの姿勢は神と切り離すことはできない。無神論者とは神に無関心であることではなくて、神の存在を無いものとして扱う立場にあるのだなと。それは裏を返せば、神の存在を意識しているということでもあり、キリスト教が生活と思想に深く浸透した文化背景を持つ者ならこうなるのかな、とも思った。自分の価値観や文化的背景とは異なる人なのだとしみじみ実感。
 また、ケイヴの現住地である英国ブライトンの風景が度々出てきて印象的だった。ブライトンという街は観光地でもあるらしく、空が雄大で大変美しい。私の中のケイヴは未だ「From her to eternity」「Let love in」であり、薄暗いライヴハウスが似合うイメージなのだけど*2、こういう風に捉えている流れがあるのだなあと。故ローランド・ハワードや、今は離れてしまったブリクサの映像があるのは従来からのファンとしてはたまらないものがあったが、インタビューはミック・ハーヴェイからも取って欲しかったなあ。あと、ブリクサが80年代より二回りくらい大きくなってて時の流れを感じた。
 穏やかだけど、色々考えることが多く、そしてケイヴへの理解がちょっと深まったような気もしてお得な感じの映画だった。

*1:「weeping song」も、父親(神)と息子の対話だったな。

*2:まあ、金ラメでギラギラのセットを背景に、これまたギラギラのステージ衣装で歌う昨今のケイヴのライヴ映像も挿入されていた。物凄く場末の胡散臭いおっさんぽくて笑えた。ケイヴはこういう可笑しみがあるのがいい。