豊田道倫 at なんや(名古屋御器所)

 「SING A SONG2」のレコ発ツアー。

なんやというところ

 地図で見ると河の中洲のような区画に見える、鋭角の三角形の土地に建っている三角形の建物。ストリートビューで見ると凄く異様な外観だったが、中はそれほど異様でもなかった。オーナーの手作りか? と思わせるような温かい木造りの内装。ライヴ会場は二階だそうで、二階に上がる階段にはガラス戸がついて閉められていた。防音用なんだろうか? 準備ができるまでは一階で待機とのことなので、腹ごしらえをしつつ待機。料理が皆微妙に足りないのでガンガン頼んでいたら、途中から物凄くお腹いっぱいになってしまう。
 ここでリアルそーへー君を初めて見た。おうおう、大きくなったねえ。おばちゃんは君がベビーカーの中にいる頃から、君の成長を見守ってきたよー。と、内心完全に親戚の気分。豊田さんの文面から、何だか物凄く可愛い少年を想像していたのだけど、普通の少年だった。父親の愛バイアスがかかってたな、私。
 二階席に移動した当初、彼は後からついてきて座布団の山に寝転びながら「僕が誰の弟か知ってる?」と訊いていた。「子ども」と言うのは、子ども心に子どもっぽくて嫌だったのか、彼の心理的な位置づけでは父親は兄貴分みたいなものなのか、どっちなんだろう。漠然と思う。

豊田道倫

 久しぶりに観る豊田さんはずいぶん白髪も増え、後半のエフェクターを使ったノイジーなパートは辛かったが*1、ハッと胸を突かれるようなセンチメンタルさは相変わらず。また、かつてMCで時折見かけた陰湿な棘のような雰囲気は薄くなっていた。今回のライヴで印象に残った発言は以下の通り。

  • 曽我部恵一からうどんの御中元をもらうらしい。
  • 以前来た時は三輪二郎さんと一緒だったらしい。今夜は何処に泊まるのか尋ねると「いや、適当に誰か(女)の家に……」とスカしたことを言っておきながら、結局この店に泊めてもらったという三輪さんのちょっと情けないエピソードを話していた。ははは。続けていると色々なことがあるからね、というようなことも言っていて、もし竹野さんが続けていたら、豊田さんと回るようなことがあったのかもなと思ったりもする。私は竹野さんが今歌っていないことは歌っていることと同じなのだと思っているけど、実際歌っている人とはやっぱり違うよなとも思う。続けている人にしか出せない味や研ぎ澄まされ方というのは、間違いなくある。
  • 石原洋にプロデュースして欲しいらしい。「無理だろうな、『弾き語りの人は嫌い』と言っていたから」といつものボヤキ節。しかし「君はいいね」と言われたとも言う。石原さんのことは好きなんだそうで「いいですよね、山本精一さんをちょっと格好良くした感じで」。わははは。
  • 坂本慎太郎のことを「真面目」と評していた。ロックでサイケで……のスタイルを作って、そこから外れないことを評してらしい。「(自分のかぶっていた白いキャップを指して)彼らは絶対こんな帽子被らないと思うもん」。わははは、確かにファイテンのキャップは被らないだろう。豊田さんの絶妙なダサさは相変わらずだなあ。

 で、私は相変わらず孤独が染み入る歌に弱い。「東京の客は自分を見ずにあらぬ方向ばかりみている。自分の中の空想に浸っているのだろう」というようなことを豊田さんは言っていたが、自分の態度は豊田さん言うところの「東京の客」そのものズバリで、思わず苦笑い。というか、豊田さんの歌詞の「他人の個人的な記憶や感傷にリンク・共鳴する力」が強力過ぎるんだよ! 彼の歌は、彼の個人的な体験や記憶を軽々と越えて、私の記憶の断片や(普段は地獄の釜にしまっている)感傷のかけらを激しく揺さぶる。どこかへ旅行へ出かけるのに一葉の写真なんて実際には持たないけど、それが歌としてフレーズに乗っかると無茶苦茶胸に染み入る。別れた遥か昔の恋人に実際会っても(豊田さんの言うとおり)「太った(皮膚たるんだ、白髪増えた、ハゲた、老けた)な……」位にしか思わないのはわかっている。それでも「東京の恋人」は美しいんだよ! ということで、本日もボロ泣きで帰路。豊田さんは独りで観に行くのが必須というか、周囲に好きだと話すことさえ憚られる、そういう位置づけにある人で、好きなんだけど大っぴらに好きと言いづらい。何だかとても厄介な、好きな人。

SING A SONG 2

SING A SONG 2

東京の恋人

東京の恋人

*1:音の大きさと会場のサイズ、音と会場の雰囲気が合っていなくて耳が痛かった!