「教育と愛国」 at 呉ポポロシアター

呉ポポロシアターというところ

 呉推しとしては、一度は行かねばならぬと思っていたポポロシアター。しかし駅から遠い・駐車場なし(提携駐車場もなし)という立地条件のハードルの高さと、そのハードルを乗り越えてでも観たい映画を上映しているわけでもなしという状況で、なかなか訪問の機会がなかった。今回監督の舞台挨拶があるとのことで、ようやく訪問と相成る。

 「ポポロ」というショッピングセンターの最上階にあるのだが、下の階の臭いが映画館の中に充満していてキツかった。中野ブロードウェイ地下の薄暗い個人店舗の臭いというか、生鮮食品を扱う古い個人店舗の臭いがする。しかも鼻がいつになっても馴化しなくて、ずっと「つらいなあ……」と思いながら映画を見なければならなかった。地方の小さい映画館は貴重なので、観たい映画があればできるだけ使いたいと思っているのだけど、次また行くのは二の足を踏む。

「教育と愛国」

 歴史学の知見に基づかない教科書作成、政府が教科書検定を通じて日本の戦争加害の話をできるだけ教科書から控えさせようとしている話のオンパレードで、気持ちが暗くなる。学問の新しい知見を反映させない教科書の作成はまずいだろう。しかも日本の戦争加害を知ることが「日本人の誇りを傷つける」という論展開が全く理解できない。私の祖父は学徒動員で満州に行っていたので加害者の立場になった人だが、従軍経験は祖父の心を傷つけたと思っている*1。戦争は被害者は勿論、加害者の立場になった(ならされた)人さえも傷つける。一般市民のダメージは計り知れない。そんな負荷の大きな行動(戦争)を、何故起こしたのか? どうして止められなかったのか? そのことを知るのは、今後戦争を予防するために必要だと思うんだけどなあ。また「私たちの祖先が行った加害を認めると傷つく誇り」とは、随分脆弱で幼稚な誇りだな、とも思わずにはいられない。まあ映画の中で語られる「愛国」は納得のいかないことばかりなんだけど、しかし学問の知見は、知性はどうしてこの流れを上回らなかったのかも不思議でならない。これからどうなって行くんだろうなあ。

 あと、安倍元首相が愛国教育の中心人物として描かれていたのだけど、中心人物であることよりも、彼の周囲からの好かれ具合の方が印象的だった。首相だ/だった、権力を有している、ということに留まらず、この人は周囲を魅了する人だったのだろう。空虚で嘘ばかりの国会答弁の印象が強くて私は嫌いだけど、多分実際に会うと凄く魅力的な人なんだろうな。

 映画は何人もの人物が登場するが、インタビュー自体のぶっ飛び具合と面白さは「主戦場」の方が凄かった。東大名誉教授の歴史学者のインタビューとか、インタビュアーがインタビュイーのタヌキっぷりに負けてる。あと、杉田水脈がインタビュー依頼を断りづつけているのは、やっぱり「主戦場」で手痛い目に遭ったせいなのかしら。

 安倍元首相が暗殺されて、自民党統一教会の関係が連日報道されて、岸田内閣が改造されても統一教会との関係疑惑がある閣僚が7名、もっといるかもとも云々。昨年封切られた映画なのに、ここ1か月ほどの事態急展開で、何だか凄く昔の話を扱っている映画のようにも思えた。

 監督の舞台挨拶で面白かったのは、籠池さんのエピソード。「映画を観ましたよー、いい映画ですねー!」と褒めてたらしい。安倍晋三記念小学校が出来上がっていたら全然違う感想だったんだろうか……とか、この調子の良さがこの人の魅力でもあり、危険なところでもあるんだろうなあ、とか色々思った。

 

*1:この辺の話は過去記事に書いた。