AVに出ることになる

 何だかよくわからないが、AVに出ることになった。

 監督から今日のスケジュールについて色々と説明を受けた後、撮影場所まではバスで移動することになる。路線バスのような大きいバスで、座席以外のスペースががらんとしている。何故このバスを使うことになったんだ……。発車まで待機していると、しみったれた母子と高齢の女性が乗ってきた。AVの撮影という状況におよそ似つかわしくないこの人達は、監督の家族らしい。うわ、監督の家族も同席するのか。その後、ヒョロッとした色の浅黒い男性が乗ってきた。私の相手役を務める男優さんらしい。とりあえず挨拶。黒目勝ちの丸い目とニコニコした表情は愛嬌があるが、皮膚や歯の感じが汚らしくて、全然性的に魅力を感じない。

 まいったなあ、しかし仕事だ。仕方がないかなあ……と思っていると、バスが走り出した。ぼうっと外を眺めているうち、(AVということは、私がセックスしている様子が出回るってことか)と気づく。それは大分嫌だな。というか、どうしてそのことに今まで気づかなかったのか私。今断ったら、ここに乗っている人達みんな嫌がるだろうな。でもこの仕事やりたくない。思い切って監督に「すみません、」と声をかけた。

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 ネイティヴ・アメリカンは、夢は「今の私」とは別次元の現実だと考えるらしい。私はこの考え方が好きなのだが、すると夢の私はあの後大分揉めていることだろう。どうなったかしら。そして、ここ10年くらいは夢にうなされることが減った。苦しい夢は見るが、本格的に苦しい事態になる前に目が覚めるのだ。年を取って、悪夢の見方も老練になってきたということなのかしら。それとも、体力的に耐えられないのかしら。