悍威に富み良性にして素朴の感あり

悍威に富み良性にして素朴の感あり、感覚鋭敏、動作敏捷にして歩様軽快弾力あり。

(日本犬保存会による、日本犬の本質とその表現の定義)

  日本犬の全国展覧会が岡山で開催されるというので、近場で開催されるこのチャンスを逃すまいと鼻息荒く行ってみた。

バレンタインパーク作東というところ

 えらいファンシーな名前だが、地図で見ると結構な山の中……。「恋人達の聖地」という冠言葉しかり、ペイネの彫刻があったり、噴水(現在休止中)があったり、バブルの残り香すげえなと思っていたら、計画が開始されたのは1989年らしい。やはり。18年かけて完成させたというのも凄い。バブル崩壊にもめげなかったんだなあ。そして、過疎地域の施設にありがちな廃墟感や鄙びた感じがあまり漂っていなかった。敷地もそこそこ手入れが行き届いている。あちこち電気を消されていたり、壊れたり破れたりした家具をそのままだったりしがちな「バブルの遺産」において、この整った感じは珍しい。レストランは田舎の公共施設の食堂感があり、無理をしていない感じが好感が持てる。紅葉も綺麗だった。

全国展覧会

 全般的にJKCのドッグショーよりも長閑な雰囲気だった。設備は運動場にロープ止の杭を打ち、ビニールテープで区切って出陳リングを作っている。本部テントの裏には紅白の横断幕。参加者も何だかのんびりしている。保存会が用意したテントに各ブリーダーが入っているのだが、朝からいきなり飲酒して真っ赤になっているおいさん達がいる。トリミング台を用意しているところは皆無だったのではないか。出陳ギリギリまで犬の身だしなみを調えていたあの緊張感や切迫感はない。出陳者の衣装も普段着が主流。スウェットだったり、作業着だったり。「日曜朝の散歩ついでに連れてきました」みたいな雰囲気。いや、散歩ついでに連れてきたはずは絶対ないんだけど。

 人間がのんびりしているので、当然犬ものんびりしている。というか、あまり人間のコントロールが入っていない。すれ違いざまに犬からにおいを嗅がれるのはしょっちゅう、たまに犬に飛びつかれた。リングに入ると、犬同士が威嚇し合い、人が手綱を引いてそれを止めたりしている。リングの面積が狭く、犬同士の間隔が狭いのでストレスだったのかもしれないが、JKCのドッグショーではまず見なかった光景。杭やその辺に排泄したり*1、うっかりその辺に座ったりしている。

 審査は

  • 歯を見る
  • 体高を測る
  • 目の前で「シュッ」と言いながら拳骨を提示する
  • 立ち姿を前後から見る
  • 一辺2m四方の枠内を、犬を誘導して歩く
ことで行うのだが、犬が嫌がったり、じっとしていなかったり、ハンドラーの誘導を嫌がったり、これも一苦労だった。犬のコントロールの入っていないっぷりは、JKCのドッグショーを見た後では結構な衝撃だった。日本犬はこんなにもしつけが入らないものなんだろうか。それとも「悍威に富み良性にして素朴の感あり」なので、あまりに人の指示に従うのは日本犬らしくないということなんだろうか。犬同士の威嚇は雄のブースで明らかに多く、雌はそうでもなかった。この辺も「素朴の感あり」だからだろうか。
 参考犬という、数回の受賞歴がある犬もこの辺はあまり変わらなかった。9歳と12歳の犬がパフォーマンスを行ったのだが、両方の犬ともハンドラーの誘導に十分従わず、場合によっては抵抗した。片方の犬は途中でポールに排尿していた。シニアの優秀犬でもこれか……。やはり素朴の(以下略 だからだろうか。
  しかし、私はこの緩さが良かった。強迫的な緊張感が漂うドッグショーよりも、いかにも「田舎の庭先で繋がれて飼われている番犬」という雰囲気がある。昔ながらの「目が吊った」顎のよく発達した顔の犬たちは精悍で格好良かったし。ただ、犬が苦手な人には、結構しんどい会だろう。あと、都会で楽しみのために飼う犬としては全然向かないと思うけど。

 

*1:便はちゃんと持ち帰っていた。