川沿いの道を歩く

 初秋のような、夜風が気持ち良い夜だった。幼なじみAと私は連れ立って、町内の川沿いの道を歩いていた。Aは妊娠中でお腹が大きく、Aに誘われて歩くことになったようだ。
 川沿いの道は土手の天辺を削って道にしたような造りで、道の両側は急な傾斜の草原になっていた。道幅は車がやっと通れる程度しかなく、街灯もなかった。草原を挟んで片側は商店や病院が建ち並ぶ通りの裏手になっており、閉店して静まり返っているそれらの建物の街灯が唯一の明かりだった。
 足元が暗いので道を踏み外さないように気をつけていたのだけど、まず私が外して土手を滑った。慌てたAが私を引っ張りあげてくれて事なきを得たのだけど、次にAが滑った。Aは私よりも深く滑り落ちてしまい、手を差し伸べても引っ張り上げられそうになかった。何よりも、Aは妊娠している。道の端から呼びかけても、短く呻くばかりでまともな応答がない。これはまずいのでは、と救急車を呼ぼうと電話をかけた。その位置なら草原の向かいの通りにある病院が近いから、そこへ行けと電話の向こう側の人に言われる。どうやって連れていけと言うねん……。頭をグルグル働かせながらやりとりを続けていると、不意に声をかけられた。
「ハマハナちゃん」
Aだった。私の様子を探るような表情で、おずおずと声をかけてくるいつものAだった。訊けば、落ちたところから少し歩いて、傾斜の緩やかな箇所から道に上がったと言う。
 一気に力が抜けたものの、先ほどまで呻いていたAと目の前のAが同じ人物と思えなくて、何だか富江に遭遇したような気味悪さを感じたのだった。

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 今回の舞台になった場所は、実際には存在しない。「架空の故郷」を夢見るのは二度目。今回も穏やかさと心地好さ、そして将来何か起きるような不穏さと無気味さを感じた。