近所の大型ショッピングセンターにて

「ちょっと、そこのあなた」
 目にもかけていなかった店舗の中から呼びかけられた。声の方を向くと、ヒゲの未亡人似の眼鏡をかけた男が私に向かって手招きしていた。呼び止められた訳がわからずポカンとしていると、「編み込みを覚えなさい」と彼は言った。店の様子からして、その店はヘアケア製品の店頭販売も行っているヘアサロンらしい。どうして編み込みを? だいいち、私の髪は編み込みを行うには短過ぎるが? と尋ねると、彼はわかってないなあという仕草で「編み込みを覚えれば、帽子の脇からはみ出したそのみっともない巻き毛をセットできるわよ」と言った。なんだコイツ、嫌味か。もうすぐ髪を切りに行くからいいんですよ! それに私は編み込みできるし! と反駁すると「しばらく不景気は続くから、美容院にそうそう行けないわよ」と返してきた。
 自分の店がヘアサロンなのに、わざわざ客足を遠のかせるようなことを言うのか。そう思ったら可笑しさと拍子抜けで力が抜け、私は床へ仰向けに寝転んでしまった。すると頭を進行方向にして、私の身体は床をスーッと滑り出した。ダウンジャケットを着ているので、生地が滑りやすいのかなあ。あ、床が緩く傾斜しているのか……。今にも止まりそうな速度で、しかし止まらず私は滑って行く。面白いのでそのまま滑っていると、ヒゲの未亡人似の男も寝転んで床を滑って追いかけてきた。彼は滑車をつけているので、私よりも滑る速度が速い。あっという間に追いつかれたので、寝転んだまま膝を曲げて思いっきり蹴ると、彼は逆方向へスーッと滑って行き、ショッピングセンターの自動ドアにコツンとぶつかって止まった。その様子を私は笑って見届けたのだが、他の客がいたら危なかったと気がついてハッとする。私たちの周辺に高齢者がいたら、衝突して転倒させていたかもしれない。無闇にこんなことをしてはいけない、そもそも寝転んで床を滑ったりしてはいけないわ。

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 明日髪を切りに行かなくてはならないのだが、いつもの美容師さんが産休中で未だ店が決まらず悩んでいるので、こんな夢を見たのかもしれない。