貧乏ってどういうこと?

 父(東北の某山間部出身・60代半ば)と電話で話をする。「日本人は何をめざしてきたのか」を見て、東北の貧しさがわかったと話す。ようやくわかったか! という様子の父。電話の向こう側でもドヤ顔をしているのがわかる。年端もいかない子どもの頃に父の幼少期の話はたまに聞かされていたのだが、話の内容をさっぱり理解できなかったし、父の話し方にある種の押しつけがましさを感じ、鬱陶しく感じて避けていたのだ。
 数カ月前、故郷へ帰りたいと思ったことはないのか父に訊いたことがあった。九州にいる人たちは島内はおろか県内から出ない人も多い。私と同世代、私より若い世代でもそうだ。父の世代だともっとその傾向は高い。父は故郷についてどのように思っていたのだろう。
「俺? 俺は(帰りたいと思ったことは)ないよ。貧乏で本当に嫌だったから」
 そして故郷での貧乏生活の一例として、穴掘ってそこに藁を敷いて寝ていた話をした。樹氷で有名な極寒の地で、藁敷きですか……。その時も絶句したものだが、更に今回聞いた話では

  • 自分の同級生には字を読めない奴がいた(ろくに義務教育を受けられなかったから)
  • 村に電気がついたのは自分が小学生の時
  • 出稼ぎは当然

が追加。相変わらず高度成長期の日本とは思えないようなエピソードが満載で……文盲なんて、施設の利用者でも1人しか会った(しかも明治生まれ)ことないぞ……。九州の高齢者から聞く貧乏エピソードと貧乏のスケールが違うと言うと「九州は表日本だからなー」と一言。米がとれない、農業に不向きな土地で暮らすことが如何に大変なことかをチラッと話してくれた。
 相変わらず壮大なスケールの貧乏話に戦慄するが、「貧乏とはこういうことだ」と認識しているのなら、近年増えているタイプの貧困を「貧困」とは認識できないかもなあ、とも思う。近年増えている貧困層は「とりあえず衣食住がある」「とりあえず死なない」ように見えるだろうし。