ああ、憧れの杖立温泉

 杖立のことを初めて知ったのはいつのことだったろうか。鬱蒼と暗い建物の間の通り道を見た瞬間に惚れた。それからずっと行きたいと思い続けて、ようやく今回の機会。同行者のNさんは仕事があったので、私は一足早く杖立へ。
 日田から路線バスに乗り換えて終点杖立まで。乗客は私の他は一人だけで、運転手とずっと日田の病院過疎事情について話していた。顔見知りなのね。途中からは私一人だけの貸切状態に。平日昼間の杖立は人がいなかった。いや、車は走っているし、旅館のスタッフのような人もいるのだけど、私のような「いかにも旅行客」という風情の者に会わなかった。何だかがらんとしている。背戸屋と呼ばれる路地裏を歩き回るが、狭いエリアなのであっという間に歩き切ってしまい、すぐ手持無沙汰に。ゴミがその辺に捨ててあったりして汚らしく、鉄輪のような風景の長閑さにも欠けていた。寒くなってきたので、立ち並ぶ旅館の日帰り湯に入ろうと思ったが、多くの旅館の玄関は明かりが消えていたし、玄関のドアを施錠している旅館もあった。何だかいかにも自分が余所者であると感じられて、行き場がないような悲しい気持ちになる。足湯コーナーも無人だったので、足湯に浸かったまま蒸し場*1で蒸した卵と芋を食べて昼寝。その間誰にも会わなかった。食べてみたら芋の1本は腐っており、何とも言えない悲しい気分に拍車がかかる。

*1:鉄輪でいうところの「地獄蒸し」ができる釜。蒸し場の傍に無人販売所があったので、蒸し場で使う食材として芋と卵を購入した。