渡辺勝新作アルバム全国ツアー(出演:魚座、THE MUNZ、渡辺勝+川下直広+松倉如子)at GALLERY SOAP(北九州・小倉)

 呆けすとら夏の公演「真夏ノ夜ノ夢」と日付がかぶり、どちらのライヴに行くか金曜日まで悶々と悩み抜き、こちらに行くことを選択する。渡辺勝さんのライヴをネットで試聴して、この人とムンズなら叙情性と湿度の高い、好みのイベントになりそうだと予想しつつ。

魚座

 キーボード女子、ギター+ボーカル男子、ベース男子、ドラム女子の4人編成。歌いだした当初からボーカルの鼻濁音が気になってたまらない。あれだけ鼻に音を響かせられるなら、鼻が気持ち良かろうて。いや、微振動が過ぎて鼻がカユイかも?*1 とか鼻濁音のことばかりに注意を取られっぱなしのわたくし。曲は全般的に淡々と進む印象。60年代っぽい可愛らしいハーモニーが魅力的な「エンゲルコール」と最後の曲は良かった。

ムンズ

 入場時に蝉の岡崎さんがいるのを見かけたので、これはひょっとしてひょっとするか? と思ったらムンズに登場。「真夏ノ夜ノ夢」とどちらに行こうか迷ったが、こっち来て良かったなー、いやー本当に良かったー。ホックホクのわたくし。しかも今日のムンズは快哉を叫びたいほど久々に良かった。
 私が観た最近2回のムンズ*2は竹野ソロの濃密さとテンションの高さに敵わなくて、それはそれはもどかしかった。正直、もうムンズという形態は合わなくなって来ているのでは? とさえ思ったほど。しかし、今日のムンズはそんな印象を払拭してしまうのに十分だった。特に23がこんなに格好良かったか? スネア2つ、バスドラ1つ、シンバル2つ、ハイハット1つの超シンプル編成のドラムセットを、身をよじるようにして叩き上げる姿に見入ってしまう。ミルコンは音でかい。竹野ギターは叙情低め、ノイズたっぷり。歌を歌いきった途端ぐおーんと鳴るギターに、思わず目尻が下がる。そして岡崎さんのギターは細く長く、亀裂のように鳴っていた。時々ハウリングもしてた(で、なんか調整してた)。リーダーと竹野さんの寸劇「俺とお前の30's レボリューション」*3もバッチリ決まり*4、笑いつつ「おっしゃー! これでこそムンズ!」と内心ガッツポーズ。寸劇の終盤に出てきた「今出た問題は全然解決してないんだけどいいのか?」という竹野さんのコメントが微妙に素っぽくてツボだった。
 今日のこんな演奏を観てしまうと、竹野さんが活動拠点を東京に移すためにしばらくムンズを観られなくなる*5のがつくづく惜しくなってしまう。バンドの各パーツ全てが粒が立っていて、しかもバンドとして魅力的に鳴っている。ああ、こんなバンド演奏ならずっと観ていたい、終わって欲しくない。今日はええもん観たわーと思った。

渡辺勝+川下直広+松倉如子

 このライヴは渡辺勝さんと松倉如子さんのレコ発ツアーの一環なのだそうで、渡辺+松倉、渡辺さんソロ、渡辺+川下、渡辺+川下+松倉の4パターンで渡辺さん・松倉さんの曲が次々と演奏されていった*6
 松倉さんは家で散髪したようなおかっぱ、すっぴんのような顔。顔だけ見ると本当に幼女のような風貌なのだが、声が低い。そして芝居がかった歌い方をする。ポコペンを思い出したのだが、ポコペンよりももっとたくましいかな。最近声が甲高かったり、ふわっと独特の声質の人ばかり見かけていたので(嫌いではない、むしろ好き)、何だか珍しいものを観たというか新鮮な印象。そして、そんな彼女が渡辺さんと並ぶと、さながらおじいちゃんと孫……。更に、川下さんと渡辺さんの間に立つとますますおじいちゃんと孫……。曲の開始前に二言三言やりとりしているのを見ると孫と孫の言い分に耳を傾けるおじいちゃん……。すまん。
 渡辺さんの歌は試聴した時ほどの湿り気はなく、もっと乾いた印象だった。「本当に愛していたんだ 自分のためじゃなく」とはありふれた一節だが、耳が痛い(比喩的な意味で)。そして川下さん、こんなに伸びやかで柔らかい音も出すんだなあとしみじみ。今まで聴いた時は全部即興演奏でだったからなあ……。伸び代がまだまだ十分にある印象を受ける音で、安心して聴いていられる。川下さんのサックスが入ると、最前列に座った23の身体がぐっと前にせり出していた。

*****

 事前に聴いた渡辺さんと川下さんの演奏、それからムンズ。叙情性の高い、水分過多のライヴになるんじゃないかと予想していたのだが、そうでもなかった。予想とは異なる、でも非常に満足度の高いライヴでありました。

*1:マッサージ器を握って遊んだ後に、手がビリビリして何だか痒く感じるのと同じ要領。

*2:レコ発・3月のキャルヴィンジョンソン来日公演前座。

*3:リーダーと竹野さんは現在30代。

*4:「東京はおまえを変えちまったのか?」というリーダーから竹野さんへの呼びかけで始まり、「俺とおまえで起こそうって約束したじゃねえか30's レボリューション!」「起こそうぜ30's レボリューション!」(台詞全般うろ覚え)で、竹野ギターから伸びたコードを、リーダーが手にしたエフェクターに繋ぎ直して再び共闘を誓い合い「30age riot」の流れ。「らいおー♪」と歌うリーダーの姿に、何故かCHAGE&飛鳥を思い出した。

*5:ムンズは8/23のライヴ以降、今後の活動未定らしい。

*6:川下さんは演奏がない時、大きな身体を小さく丸めてしゃがみこみ、じっと身動きせずに写真を撮る姿を度々見かけた。