今日の天使

 日中に車を運転していると、対向の右折車が停車していた。私(直進車)を待っているのだろうと急いだら、自転車がにゅっと出て来て心臓が止まるかと思った。右折車は自転車を横断させようとしていて、私がそれに気づかなかったらしい。自転車は転倒することもなく、そのまま走り去った。私は自分が加害者にならずに済んだこと、自転車に乗った若い兄ちゃんが轢かれずに済んだことを心から天に感謝したのだけど、一方でなかなか気分は晴れなかった。自転車に気づいた時の驚きと恐怖、やっぱり自分には車の運転は向いていないのではないかという不安と落ち込み(でも現在の生活を続けるうちは運転を止めるわけにはいかないという思い)で、ずっと悶々としていた。

 夜になって犬の散歩に出ると、暗闇の向こうからミスチルの「シーソーゲーム」の熱唱が聞こえてきた。歌っているのは若い男性っぽいんだけど、若い人が歌う歌じゃなかろう……。歌声は段々近づいてきて、すれ違う直前だけハタと止み、すれ違った途端にまた熱唱が再開された。(いや、すれ違う瞬間だけなんで止めるん!?)と、思わず吹き出してしまった。

 中島らもの有名なエッセイに「その日の天使」というのがある。あの熱唱兄ちゃんは、多分私の「今日の天使」だったのだろう。悶々と塞ぎ込む気持ちはいつの間にか軽快していた。

 でも、車の運転は重々気をつけなくてはならんな。対向車線で車が停車していたら、横断者の可能性を最優先で考えられるようにしたい。