イングランド・イズ・マイン

 公開当時から観たかったのだが、中国地方での公開はなかったので観られなかった映画。動画配信サイトに加えられててやっと観た。

 70年代後半から80年代のマンチェスターのことを考えると、(私はリアルタイム体験者ではないのに)胸がときめく。陰鬱な雰囲気に満ちているのに、新しい何かが生まれようとする空気と期待を感じるから。ファクトリー・レコードがあって、ジョイ・ディヴィジョンニューオーダー)がいて、ハッピーマンデーズ、ストーンローゼス! そして、勿論スミスも。

 期待に胸膨らませて観たのだが、予想以上の小品だった。予告編で映画全編を既に語ってしまっている感じ。内気で鋭い感受性を持ちながら、高いプライドと周囲への見下しと(裏腹の)自信のなさで、細心の注意を払いながらでないと新しい行動に踏み出せない青年モリッシー。お気に入りの作家や詩人の作品の一節を共に暗唱できる友人になら、やっと打ち解けるこの感じ。彼の姿に過去の自分の一面を見るような思いがあるし、今の「客」にもこういう人一杯いるしなあ。微妙に仕事スイッチが入って落ち着かない。あと、職場の高嶺の花がモリッシーに絡むのは納得いかなかった。こんな内気な皮肉屋に絡むか? 拒絶されたので燃えたのだろうか、わからん……。

 大袈裟にドラマティックな出来事はない。やっと見つけた打ち解けられる友人やパートナーは才能を認められてロンドンへ行ってしまい、偶然出会った昔のガールフレンドは病で亡くなる。自分だけが取り残されていくのではという焦燥感と切なさはあるけど、まあ幼い。母親はそんな彼をとことん優しく受け入れてくれる。それで「家族に恵まれてるわけだし、ここにいてもいいんじゃない? 息子がロンドンに行くことを母さんは望んでないようだし」と、つい母親の肩を持つわたくし。年を取った。

 物語はジョニー・マーとの出会いで終わる。これでスミス結成まで描いてくれたら気分良いカタルシスがあったんだろうけど、それはファンが黙っていないだろうから、難しかったんだろうなあ。

 別に悪くはないけどパッとしないというか、中国地方の映画館が上映しなかったのもむべなるかな、と思った。