胸に留めておくべき愛もある

 夜は先輩に連れられて、3軒飲み屋をハシゴ。最後の店は女装家のママが経営するスナックだった。この人ハゲが好きなんですよーと、私の嗜好をママに暴露する先輩。身近にいる素敵なハゲを褒めたいんですけどどう褒めたら相手に喜んでもらえるかわからなくて、とママに話してみると「それは難しいわね」とママ。曰く、「ハゲ」という言葉は本質的に罵倒語なので、褒めることはできないだろうと。何だか物凄く納得してしまう。ハゲという言葉を使わなければ良いのかもしれないが、ハゲの婉曲表現て嫌味っぽくなってしまいそうだしなあ。単刀直入に頭蓋骨を褒めたら良いんだろうか。色々考えてみるが、ハゲについては一切触れないようにすることが一番良さそうだとの結論に達する。ここ数週間の懸案事項が一応決着を見たような恰好。
 スナックを出た時点で午前1時。私はもうふらふらだったが、先輩は全く元気で、もう1軒行こうと言われる。いつも思うんだが、バブル世代とはそもそも人間の作りが違うような気がする……。先輩と別れて、夜の中洲の川沿いをぶらぶら歩いて帰った。川のある繁華街は色気があると言ったのは豊田道倫だが、確かに中洲はとても色っぽい。酔っ払ってぶらぶら歩く時間が私はとても好きで、私と同様の「酔ってぶらぶら散歩愛好者」だった偽兄のことを思う。偽兄はこういう時間を共有できる数少ない友人だった。ここに偽兄がいたら楽しかっただろう。偽兄と中洲の街を歩いたら楽しいだろうな、と以前何度か思ったことを思い出す。多分これからそういう時はないだろうけど。