「ヤング@ハート」「イントゥ・ザ・ワイルド」at 昭和館(小倉)

 昭和館は北九州は小倉の二本立て映画館。昭和館で映画を見るんだよ、と小倉在住の後輩に言ったら「昭和館って旦過市場の傍のあの汚いとこですか? まだ営業してるんですね」と返事がきた。そんな認識されてる映画館なのか昭和館……。割とお世話になってる映画館だけど、汚いと思ったことがないので少し驚く*1

ヤング@ハート

 何故かロックやR&Bばかりをレパートリーとする、平均年齢80歳のコーラス・グループのドキュメンタリー。職場(高齢者施設)で利用者さんの話を聞いていると「私生き過ぎました」という感想を聞くことがたまにあるのだが、「生き過ぎた」という感覚を持つようになったのは80歳頃からだった、と言う人が多い。なので80歳は1つの節目の歳なのだろうと思っていたが、そんな「生き過ぎた」と感じて不思議ではない年頃の人たちが集まって公演を行い、海外公演にまで行ったというのだから、この映画はスーパー高齢者のドキュメンタリーなんだろうなと思って見た。
 映画の冒頭に始まった曲はCLASHの「Should I stay or should I go?」だった。蓮っ葉で魅力的であろうと推測される女性のセリフが、皺くちゃの婆ちゃんに歌われているのを見るとどうしても笑いが込み上げてきてしまう。インタビュー中に「寝室を見せて」と言った映像スタッフに「いいわよ坊や」と返す婆ちゃん、「この前倒れた時*2、枕もとに牧師を呼ばれたよ。牧師呼ぶ前に医者呼べっつーの!」と言う爺ちゃん。わははは。高齢者自身が発するこの手のネタは大好き。
 印象的だった点はいくつかあるが、1つめはグループを指揮する50代の態度。親子かそれ以上に年齢が違う相手、しかもリーダーシップを取る方が年齢が下というのはやりにくくないのかしらと思ったが、少なくとも映画の中ではそんな様子はなく。2つめは、メンバーが亡くなった際は、たとえ公演直前であってもすぐ他メンバーにメンバーの死を知らせていたこと。死の衝撃が公演に響く危惧をして、伏せたりしそうなものなのにそうしないのは、死が身近な対象である高齢者相手だからなのか、それともお国柄か? この辺文化的背景を知らないこともあり、なんだかよくわからん。そして、メンバーの急逝後にインタビューを受けたメンバーの「彼は亡くなったけど歌うわ。私が亡くなった時も歌い続けて欲しい」という言葉やそれに類する言葉には、「自分はいなくなるけど自分が所属したもの、愛した対象は続いていく」という思いは死への恐れを軽くするのかもなと思ったりした。この辺りのメンバー急逝シークエンスには、昨日の打ちのめされた余韻が残っていたこともあり、花粉症時鼻水の如く、無暗に涙だだもらし状態。うーっキツイと思いつつ見た。何だか色々消化不良な後味。

イントゥ・ザ・ワイルド

 「ヤング@ハート」が終わったら映画館を出ても良かったのだが、ライヴ開始までまだ数時間あり、昨日の寝不足もあってできるだけ体力温存したかったので*3、続けて見ることにした。二本立てってこういう「自分で選んで見るなら絶対に見ないであろう映画」を映画館で見られる機会を得られるのが楽しいところ。「ヤング@ハート」の時と比べると観客がごっそり減った。まあねえ。
 実話を基にした若者のアラスカ冒険物語で、アラスカ大地の映像美が見物、という映画らしいと把握していたのだが、そのまんまだった。で、今の私の感覚では、主人公の冒険の動機が現在の自分の生活および家族関係への反発であることが馬鹿馬鹿しく感じられてどうしても駄目だった。盗んだバイクで走りだす類の美学はどうも苦手なのだ。等しく死は訪れるのだからわざわざ無駄に危険に晒さなくても良かろうものとか、危機管理足りなさ過ぎ*4とか思ってしまってな。もう20歳くらい歳をとったら、今とは違う感慨を持って見られるのかもしれない。しかし何だかんだ言いつつ、一通り見てしまった。確かに映像は奇麗だったし。あと、非常に印象的だったのは、主人公は3か月荒野で隠遁生活しているのに衰弱するまでは髪も髭も綺麗に整えていたこと。野性人のように毛髪伸び放題で主人公を描くのは、主人公が魅力的に映らず映画的によろしくないのでこのような措置をとったのかと思っていた。しかし、この映画のモデルとなった青年の「荒野でのセルフポートレート」が最後に映された際、写真の中の彼は髪も髭も綺麗に整えていた。それで、モデルとなった青年は社会から隔絶した環境下に身を置いても、身だしなみの意識を忘れなかったのかと理解する。人間の中に生きていても、しょっちゅう身だしなみがヤバいことになるわが身を振り返り、大いに反省した次第。主人公の青年について、この点だけは見習おうと思った。

卒業/15の夜

卒業/15の夜

*1:そんなにあちこちの映画館に行ったことがあるわけでないので何とも言えないが、個人的には昭和館よりシネテリエ天神の方がヤバいと思う。あの居酒屋めいたトイレ洗剤臭さは萎える。

*2:何しろいつ死んでも全くおかしくない年頃の人達だ。

*3:疲労した状態でライヴに行くと大抵居眠りするから。

*4:燻製肉の製造に失敗するエピソードとか。燻製肉は実地訓練してから行けよと思ってしまった。