「記録・土呂久」 土呂久を記録する会編

 宮崎のど田舎であった鉱毒事件と、その患者たちが起こした訴訟が和解に至るまでの過程で様々な立場の支援者たちがどのように関わったかを、それぞれの立場から記録・編集した本。物凄く分厚い本だけど、同じ展開の話が違う観点から何度も語られるので、途中で読み止めてもまたすぐ読める本だった。以下、本の中で印象に残ったことをいくつか。

  • 弁護士が書いた裁判の過程に関する章。原告と被告の駆け引きと作戦の展開が(こう言っては不謹慎かもしれないが)実に面白かった。裁判があんなにスリリングで、手に汗握るものだとは思わなかった。
  • 原告、佐藤鶴江さんの意見陳述「たとえどんなに根治の見込みはないと言われましても、生きていく権利があります。また、生きとうございます。」という言葉は胸を打った。砒素による全身障害を抱えて、鉱毒に汚染された土地で、死なずに土地を去らずに「生きとうございます」と言う意味とは何なんだろう? 私にはまだわからない。
  • 抗議する言葉を持たず、自分の権利を主張する力を持たず、金になる資源を都市部から「搾取されて捨てられた」土地に住む病人たちが、周囲の協力を得ながら、言葉を持ち、少しずつ闘い方を学び、権利を勝ち取っていく過程は読んでいて苦しかった。身体がキツくても仲間が死んでも騙されても、くじけずいじけずあきらめず主張し続けるって、かなり力のいることだ。chimadcさんの記事(最近のだとid:chimadc:20050529とか)を思い出してしまった。彼女がよく書く内容を、そのまま実現したような展開が繰り広げられていた。
  • 本の巻末には、一般書から映像・写真集まで、土呂久関連の資料が幅広く紹介されていて、大変便利。

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