自転車預かり所

 自宅から20kmほど離れたところにある施設に、研修のため4日間通うことになった。この施設は最寄駅から5kmほど離れており、駅から施設までの間はバスもないのでタクシーで通うしかない。美利達ちゃんでなら自宅から通えない距離ではないが、毎日は少々心許ない。そこで、施設の最寄駅前にある自転車預かり所に美利達ちゃんを預け、施設最寄駅から美利達ちゃんで通うことにした。
 本日施設まで下見に行き、美利達ちゃんを自転車預かり所へ持って行く。自転車預かり所は田舎の車庫というか土間を車庫に改造したような建物で、ちょっと傾いでいたが、田舎の建物ならまあよくあること。入り口をくぐると、ピンポンセンサーが鳴り、土間と続きになっている建物の方から誰かを急かすようなおばちゃんの声が聞こえ……鼻に酸素吸入のチューブをつけた爺さんが出てきた。足取りはしっかりしているが、難聴と記憶障害がひどい。何度言っても日付を忘れて「今日は何日かえ?」と尋ねてくるので、その度に日付を絶叫。絶叫しないと聞こえないから。とりあえず2日分の料金を払って預ける。爺さんのこの記憶障害ぶりでは、万が一盗難に遭っても「預かっとったかの〜?」とか言われて終わりそうだ……大丈夫か。そして預けてから、この自転車預かり所が貸自転車のサービスを一日300円で行っていることを屋内に貼られた料金案内から知る。自転車預かりが一日200円なので、美利達ちゃんを預けるよりも、貸自転車を利用する方が安心で安上がりに済みそうだと思ったが、爺さんに説明して返金を求めるのが面倒くさく、そのまま帰る。
 「認知症の高齢者が(施設ではなく)地域で暮らしていけるようにしよう」は、現在の介護・福祉業界の大きなテーマだけど、こういう爺さんを見ていると案外実現可能なんじゃないかと思う。多少デコボコやまずいことはあるだろうが、それでも何とか暮らしていけるものではないかと。