「私は誰になっていくの?―アルツハイマー病者からみた世界」クリスティーン・ボーデン

 アルツハイマー病患者が自分の病気について書いた本。非常に面白かったのは、アルツハイマーの症状である視覚障害や注意障害、そして記憶障害が現れてから、彼女がどのように外界を知覚し、情報の処理しているかを説明している第7-11章。限られた能力をフル回転しないと「何気ない」日々の生活が送れなくなっている様子がよくわかる。こりゃ疲れるわなあ。そして、やがて「どうにかこうにかギリギリ遂行している」今の生活もやがて送れなくなる不安。
 オーストラリア政府の高官であった彼女が、知能低下していく病に罹るということは、自尊心を根幹から傷つけられるような話なわけで、自殺していても全く不思議ではない。そんな彼女を支えているのは神への信仰と、同じ信者の仲間たちだ。病と運命の理不尽さ、苦痛を軽減してくれる資源として、宗教は実に有効なのだなあと思う。でも、私たちは信仰を持たないし、宗教的なコミュニティも持たない。そんな私たちが病や運命の理不尽さに直面した時は、どうやって乗り越えていけば良いんだろう。

私は誰になっていくの?―アルツハイマー病者からみた世界

私は誰になっていくの?―アルツハイマー病者からみた世界