くら寿司とわたくし

 帰り道、くら寿司が幹線道路沿いに建設中であることに気がつく。
つ い に 我 が 街 に も く ら 寿 司 が !
内心思わず快哉を叫ぶ。くら寿司、以前一度出かけてからすっかり好きになってしまって、ずっと行きたかったんだけど近くにはなくて、延々先延ばしになっていたのだ。
 くら寿司の何が好きなのかといえば、徹底した機械化にまつわるあれこれにつきる。まずスタッフがいない。私が入店した時間は夕方で、昼食にも夕食にも合わない実に半端な時間帯だったのだけど、この時店員は誘導と会計をする人一人だけしかいなかった。半端な時間帯なので客もほとんどおらず、がらんとした店で寿司を食べた。レーンの中に寿司を作るスタッフ(板さん)もいない。レーンに自分の食べたい寿司が流れていない時は、ボタンを操作して注文すると、座席の上に付いている別のレーンに注文した寿司が届く仕組みになっている。作り手と一切顔を合わせることがない。声すら聞かない。山岡さんが見たら激怒しそうなシステムだが、ここまで徹底しているとむしろ清々しい。20年くらい前の近未来映画みたいだと思った。

美味しんぼ (7) (ビッグコミックス)

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 更に印象的だったのは、「鮮度を保つため」一定時間レーンを回り続けた寿司が処分される場面。私の目の前を通り過ぎて行ったな、と思った皿が突然回転し、寿司が捨てられたのを見た時、物凄く驚いた。「食べ物」として認識していたものが、わずか数秒後に「廃棄物」として処分される様を見るのは、急激な価値観の転換を見せつけられるようだった。また、食べたものは「廃棄物」になる寸前の物なのかもしれないと思うと、食べ物も廃棄物も大して差はないと言われているようで、これまた新鮮に感じたのだった。
 ……何だかくら寿司の魅力について、全然魅力的に語っていないような気もするが、でもこれらの理由故に私はくら寿司に惹かれたのだ。我が町のくら寿司もオープンしたら是非行きたいと思っている。開店後の混雑が落ち着いて、食事時から外れた時間帯に、独りで。