帰り道、徘徊中の認知症高齢者と出会う

出会い

 話は昨日の23時過ぎに遡る。
 私は帰宅中で、自宅から2kmくらい離れたところを歩いていた。すると、向こう側からヨロヨロと歩いてきた高齢者がバス停の傍に座り込んだ。あれ、まだバスがあるんだっけ。時刻表を覗き込むが、バスはもう無い。そこで彼に「バス、もう無いですね」と話しかけると、「A町はどっちかね?」という返答。おいさん、A町はここから4キロくらい先で、しかもあなたの来た方向ですがな。そのまま少し話をするが、会話はちぐはぐだし話の繰り返しも多い。自分の置かれている状況の説明も不十分。明らかな失見当識と記憶障害が見られる。酔っている様子はなく、意識水準は正常。

  徘  徊  キ タ━━━━(((;°Д°)))━━━━!!!!

仕事ではしょっちゅう認知症の高齢者に会っているのだが、プライベートで突然出くわすと血圧上がる。どどどど、どうしよう。とりあえず私と帰る方向が一緒なので、途中まで一緒に行きましょうと促す。ここから2キロ行ったところに交番があるので、そこで別れれば良いと思った。が、おいさんは既にふらふらで、200m歩いては休憩する時間を必要とするような状態。これでは道中事故に遭うかもしれない。仕方ないので110番した。人生初110番。状況を説明すると、おいさんの名前と服装の詳細について説明を求められる。意味あるのかこれ。すぐ行くのでその場で待ってて下さい、と言われおいさんと待つことに。その間においさんは少し元気を回復し、再び歩き出そうとするので引き留めるのにハラハラする。この人パトカーに乗せられるかなあ。嫌がるだろうなあ。

パトカーとおいさんと私

 やっと来たパトカーは赤色灯を点滅させており、大柄な男性の警官2人が降りてきた。露骨に警戒するおいさん。「名前は!?」「何処に住んでるの!?」警官の威圧的な質問に興奮し、全く答えられなくなっているおいさん。終わった……。パトカーに乗るどころか、これじゃ怒らせて此方の話を聞いてくれなくなっちゃうぞ。そして警官と口論し、制止を振り払って歩き出すおいさん。おいさんは私に対しては怒りがなかったので、説得してみるが頑として聞き入れてもらえない。まあそうだよなあ。ここで警官が「捜索願が出てないか照合してみる」と言い出す。徘徊中の認知症高齢者だって通報してるのに、どうして今まで照合してなかったんだ。幸運なことに、おいさんには捜索願が出ており、家族がこれから迎えに来るということになった。歩き出そうとするおいさんを引き留める私と警官。雨が降り出し、疲労と怒りでブツブツ言いながらうずくまるおいさん。やっと家族が迎えに来た時は既に日付が変わり、12時半を過ぎていた。警官は私を「協力してくれたから」とパトカーで自宅まで送ってくれた。私は初めて乗るパトカーに大興奮&大喜びだったのだが、タクシーで迎えに来た家族とおいさんが、道路の隅でぽつんと固まってこちらを見ているのに気がつき素面に返る。帰宅すると1時だった。

私はどうすれば良かったのか

 ついおいさんを放っておけず、一緒に過ごしてしまったのだが、頑なにパトカー乗車を拒否するおいさんに合わせていたが為に、警官は1時間あまりも時間をとってしまったし、深夜に迎えに来た家族も切なかったことだろう。しかし警官がおいさんを力づくでパトカーに乗せて保護すれば、興奮したおいさんが暴れて怪我をしていた可能性は高い。
 つい普段の習慣で、認知症高齢者の意思に沿うように動いてしまったが、それで良かったんだろうか。一晩寝がえりを打ちつつ考え、「今回は私が関わり過ぎた」という結論に達する。同じ認知症の高齢者であると言えど、施設の利用者(保護された環境下で、サービスを受ける権利がある者)と、施設外の者とに同じ対応をする必要はない。私は通報し、警官に会えたらさっさとその場を離れるべきだった。ああしくじったーしくじった! 反省することしきり、次からは気をつけよう*1

その他、気付いたこと思ったこと

  • 警官の質問の仕方は居丈高で怖い。あと自衛官の知り合いと態度が凄く似てるのが興味深く、面白かった。近縁職ということなんだろうなあ。
  • おいさんを引き留める時、警官がおいさんの前にガバッと立ち塞がるのが新鮮で興味深かった。自分の仕事では見かけない引き留め方。
  • 認知症の高齢者を保護する時のマニュアルは警察にないんだろうか。通報の時に私が伝えた情報はちゃんと伝わっているのか疑問に思うことが何度かあったし、散々本人と揉めて怒らせてから捜索願を照合するなど、鈍くさいと思った。
  • 認知症の高齢者への対応の仕方について警官が学ぶ必要もあるかなあと思ったが、犯罪者への対応と認知症高齢者への対応は真逆のことが要求されるので、難しいだろうと思った。
  • 交差点に進入するたび「一旦停止!」「よし!」と助手席の警官が確認をするのが新鮮だった。普段会わない仕事は実に興味深い。
  • 送ってもらう時、パトカーを凝視する通行人と目が合った。私は何かやらかした人と思われたことだろう。

 色々考えさせられたり見かけないものを見たりで、過覚醒になった体験だった。

*1:近年、助けが必要な状態にある認知症の高齢者に仕事外で出くわす確率が上がっているので、多分こういうことはまたあるだろうから。