認知症高齢者の帰宅願望

 正月休みで私は実家に帰省し、かつての自室でとても退屈な時間を過ごしている。火曜日から仕事なので、月曜には福岡へ帰らなければならない。朝食後今日は何曜日なのか考えていて、ふと今日が月曜であることに気がついた。えっ、何としても今日福岡行きの飛行機に乗らなければ! しかし急に気がついたので、飛行機の時刻表も予約サービスの連絡先も手元にない。ああどうしよう。家族は私以外皆出払っており、誰かに訊く術もない。ああ事態は一刻を争うのに! 焦りで考えもまとまらず、イライラしているところで目が覚めた。
 目が覚めてからもしばらく見当識がはっきりせず「ここは福岡だよな?」「飛行機の時刻を調べなくていいんだよな?」と自問自答してしまった。
 職場(高齢者施設)にて、今は既に無い実家に帰らねばならないとか、とうに退職したはずなのに仕事に行かねばならないと訴えて焦り、イライラしている認知症の利用者さんたちに会うことがある。このような訴えは帰宅願望と呼ばれ、認知症の周辺症状の1つなのだけど、あの症状が出ている時の当事者の心情とはこんな感じなのかもしれない。こりゃ苛立つし、苦しいなあと身をもって知ったような気がする。