「「助けて」が言えない---SOSを出さない人に支援者は何ができるか」松本俊彦 編

  援助が必要な状況なのに援助を出せない、あるいは嘘をついてその場をしのいだ結果もっとひどい状況に陥ってしまう人によく遭遇する。そういう人によく会う仕事である。なので、「自分の必要としていることにピッタリ合致している!」と思って読んだ本。色々な領域の「助けてと言えない人」とその対応方法が紹介されていた。私がかつて関わっていた、認知症高齢者も「助けてと言えない人」として取り上げられていた。そう言われればそうだな。認知症高齢者に関わる時の「その人の世界に入れてもらって、その人の世界の文脈で私は動く(支援する)」のが好きだった。人によって私は時に新米看護師だったし、お店の部下だったし、訪問販売員だったし、通りすがりの親切な人だった。BPSDを多面的に評価すること、本人の文脈に従って関わることは認知症対応の基本だと思っていたのだが、まだ薬で対応しようとするところがあるらしい。介護の現場、私がいた頃よりもずっと余裕が無くなっているんだろうな。

  トラウマの理解と対応、治療法の領域は知らないことが多かった。この辺はもう少し掘り下げて読んでいこうと思う。ギャマノン、男性性被害者の支援組織の話も知らなかった。支援者という立場を明確にして関わらない方が良いケースの話は難しかった。「支援者」の名札を取った途端「あなたと関わる私は何者であるのか?」「どの立場で私はあなたへ声をかけているのか?」私自身のオリエンテーションも危うくなってしまうような不安定さがある。また、支援者自身が「助けてと言えない問題」も結構重かった。よくある話だし、この問題は私自身も抱えやすい問題である。

 しかし松本俊彦の本は、テーマは依存症や自傷などかなりハードなのに、明快だし面白いし読みやすいし、しかも軽妙な味がある。読む度いつも不思議。