黒田征太郎×中村達也 at門司赤煉瓦ホール (北九州・門司)

「drum x painting LIVE!!!!! 」と銘打って、イラストレーターの黒田征太郎さんとあの中村達也のコラボライヴ。門司は遠いし、翌日は5時半起きの仕事だし……で、相当迷ったのだが、行かなかったら後で絶対後悔すると思ってモソモソ準備。帰宅できない可能性が高かったので、職場近く(博多)に宿まで取り、万全の態勢で臨む。

門司駅周辺はオシャレだった

 快速で2時間くらい揺られて門司に到着。21時開演に合わせて到着したので既に門司駅周辺は真っ暗で人気も少なかったが、綺麗に整地された御洒落住宅エリアの様相だった。間接照明のマンションや整然と並ぶ一軒家地帯の隣は、横浜の赤レンガ倉庫を彷彿とさせる建物群が並んでいるし。あれ……門司って昔はもっと閑散としてなかったっけ*1。この雰囲気、偽兄を連れて来たら喜びそうだ。

開演前

 赤煉瓦ホールは「赤煉瓦プレイス」という素敵な赤煉瓦建物群の中にある。初めての場所だし暗いしで御約束のように道に迷ってうろついてたら、控え室の中村達也を目撃。全面窓になってている、通り道のそばの建物だったんで丸見えだった。誰かと記念写真の真っ最中だった。モヒカン+ノースリーブ+タトゥーだらけの彼は何だか始祖鳥っぽかった。
 20時半頃入ると会場はまだ6割程度の入り。しかし私で既に140番台だった。結構入ってるのね。ステージエリアは向かって左側に横向きにドラムセットが置かれ、2枚の大きなプレート(キャンバス)が客席正面に並んでいる。前方に椅子が敷き詰められ、後方はひな壇タイプの座席。全体が見渡せるように最初は後方のひな壇に座っていたのだが、酔っ払いがうるさいので前方の椅子へ移動。後方に座っている時には気がつかなかったが、床には千切ったペイント画がいくつも並べられていた。そして、ステージエリアの左上部にはわたせせいぞうの絵が何枚かかかっている。なるほど、前でしか見られないものがある。
 フードコーナーでエビのガーリック炒めが売られていたので、ホール全体にガーリックのにおいが立ち込めていた。美味そうだった。

視覚と触覚

 登場時、間近で見た中村達也は思っていたよりもずっと華奢だった。でも筋肉がみっしり詰まった体型。 黒のランニングと細身のパンツ、胸にはクロスチョーカー。黒田さんはあまり枯れた感じがない70代だった。ペイントは黒田さんの他にもう一人、若いお姉さんが加入。黒田さんが向かって左のボードでペイント、お姉さんが右のボードで黒テープを貼ったり、床に散らばった紙をホチキス?で留めていく。ドラムに合わせて小刻みに縦揺れしながら中腰でキャンバスに黄や赤色を拡げていく黒田さん。あの動きは疲れるだろうねーと頬に手を当てて考えるわたくし。そして、中村達也の音はやっぱり太かった。
 私は中村達也のドラムを以前FRICTIONのRECと演ってる時に聴いたことがあるが、演奏姿を間近で見るのは初めて*2。太鼓のバチのような、太いスティックを使っていた。これがこの人の音の秘密? でも、その後普通のスティックも使っていたが特に音のテンションが落ちるわけでもなかった。この人の音の太さ、伸びやかさ、強靭さの秘密は何なんだろう。この人のようなドラムを私は他に聞いたことがない。どうしてこんなに音が違うのか、不思議で仕方無かった。また、彼のドラムセットには不規則に歪んだ形のシンバル、おわんみたいなシンバル?と見たことないものがいくつかあった。
 ライヴペイントをちゃんと観たのは今回が初めてだったのだが、こんなに面白いものだとは思わなかった。具象と抽象が繰り返されるキャンバス。抽象だけではイメージを結びにくくて飽きるし、具象ばかりではイメージが拡がらなくてこれまた飽きる。凄くキャッチーで、見ていて飽きないのは、多分抽象と具象のバランスが凄く良いのだろう。何度も様々な色が塗り重ねられてどどめ色になったキャンバスは不穏な空を連想させる。嵐の空、近づいてくる雲、チェルノブイリの空。それを切り裂くように度々現れるのは鳥。「トリ トベ」など、時にカタカナの言葉付きで。
 そして、画材とキャンバスのテクスチャ(垂れる・ダマになって落ちる・手で塗り伸ばす・ひっかく)にゾクゾクした。縦に伸ばすか、横に伸ばすかで目で見た感触が異なるように見えるのも面白い。二色垂らし、色の混じり合いを見るのもいい。中盤以降、黒田さんは殆ど両手で画材を塗り伸ばして扱っていた。 それをじっと見ていると、キャンバスに引き伸ばした時の手の感触や、指の間に溜まる液体の感触や、そういう感覚が生々しく手に感じられ、そして腰のあたりがゾワゾワして戸惑った。私が実際に触っているわけではないのに触っているような感覚の発生。何だこれ? 私は観ているだけだし、実際キャンバスに触れたら手に生じている感覚とは異なる感触なのかもしれない。しかし視覚から触覚が生じるのは初めての体験で非常に新鮮だった*3。ただ、隣のお姉さんが床に散らばった紙をホチキスで留めていったキャンバスに、黒田さんが手で絵の具を伸ばしているのを見た時は素に戻ってヒヤヒヤした。手が切れちゃう! もしくはふやけた手で引っ掛けたら痛いぞと。
 90分ノンストップで叩き続け、描き続け、最後中村達也は助走をつけ声を上げてドラムを叩き、黒田さんはキャンバスを引っ掻いた。実にタフな90分だったのだが、何と黒田さん75歳らしい! 75歳でこのエネルギー! 色んな70代がいるもんだ。中村達也は黒田さんに促されて、キャンバスにベタッと手をつき、手に付いた絵具をランニングとパンツにこすりつけていたが、それが実に絵になる格好良さだった。人間というより、プロレスラーとかアメコミのヒーローのような格好良さがある。そして、笑顔は爬虫類と鳥類を足して2で割ったようだった。やっぱり始祖鳥だな。
 最後に黒田さんが少し話をした。

  • この組み合わせでパフォーマンスを行うのは4回目なんだそうだが、今回初めてちゃんと話をしたらしい。
  • 最後「1」「一」が並んだキャンバスについて「この絵は『いち』です」と。小学生の頃、「何故1+1をするのか」と教師に訊ねて、ゲンコツをくらったらしい。哲学的な命題だし教師も「自分で考えろ」って突き放せば良かったのにねえ。数の概念について考える機会にもなっただろうし、面白い答えに到達したかもしれないし、勿体ない*4

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 終演は22:35頃。全力疾走して終電よりも1本早い電車に乗れたが、博多着は0時を過ぎた。ホテル取っておいて良かった……。カビ臭い風呂で湯につかりビールを飲み、さっさと就寝。

おまけ

 当日の様子が、youtubeにアップされてました。白黒ですが。

*1:門司港駅と間違えているだけのような気もする。

*2:前観た時は人ごみにまぎれてステージが全然見えなかった。

*3:昔「手で触れて、対象の視覚的イメージを形成する」という一人遊びをしていたことがある。自然発生的な遊びだったのだが、今考えると視覚と触覚は近縁にある感覚同士なのかもしれない。

*4:しかし、教師の側としてはこの問いに反抗のニュアンスを暗に感じたんだろうなーという気もする。もしくは今よりずっと権威があった時代の教師だから、答えないというプレッシャーに耐えられなかったのかもしれない。 ま、「つべこべ言わんとまずは仕方を覚えろ(そしたらお前の問いに対する答えは自ずから見えてくる)」という答えは、それはそれで一理あるかとも思う。