「地図から消された島」武田英子

これまた大久野島本。タイトルは戦争中に大久野島が日本軍の毒ガス製造の秘密島として、地図から抹消されていたことに由来する。
ガスの漏出を完全には防げず島中に毒ガスが漂い、毒ガスの製造に直接加わらなかった労働者にまで毒ガス被害が及んだらしい。読んでいるだけで息苦しい気分に。戦後処理の際は、みだりに島内の物に触れたり不用意に座ったりするなと指示が出たというのだから、その汚染たるや凄まじかったのだろう。
 勤労奉仕に駆り出された十代の少女達の話も痛々しかった。教育の威力ってすげえなと思わずにはいられない。古い本(1987年出版)なので、現在はまた変わったかもしれないが、勤労奉仕や徴用でとられた人は戦後の毒ガス被害の認定を受けられなかったというのも読んでて辛かった。不況にあえぐ地方が、毒ガスの製造工場を積極的に誘致したという経緯も切なかった。富と物資が集中する都市部と貧しくてかつ搾取される地方という関係は今も昔も変わらんのねえ。何だか辛い話が多かった。
 戦後しばらくは弱者救済の良い時代があったんじゃないかと思っていたのだけど、弱者をすすんで救済しようという国の姿勢があったわけじゃなくて、大規模な生命の危機レベルの人権侵害*1だったために被害者の訴えも本気で、国はうやむやにしようにもできなかったんだろうなあと思った。

地図から消された島―大久野島毒ガス工場

地図から消された島―大久野島毒ガス工場

*1:三池の一酸化炭素中毒しかり公害しかり