あなたは我が世界

 私を広島へ招いた人が、広島を去ることになった。
 私が広島にやって来たのはこの人の誘いがあったからで、そうでなかったら今も私は名古屋にいたことだろう。この人と一緒に仕事をしたいと思って広島へ来たのだけど、一緒に仕事をできたのは僅か2年半程度だった。少しずつ広島に根を下ろし始めているので、ここで働き続ける意志はあるけれど、一方で「ここにいる意味はなくなった(これから何処へ行こう?)」という思いも頭の片隅にある。
 しかし、こういう形での別れは(今まで幸運なことに)体験したことがなかった。勿論様々な別れを体験してきたが、これまでの重要な離別は、別れの前兆があったり、私から離れていったりしていた。つまり、離別の準備ができるものばかりだったのだ。今回の別れは突然に、思いがけない形でやって来た。別れの予感さえ私はなかった。明日も1年後も、私はこの人と一緒に働くのだと思っていた。しかし突然途切れた。何と言うか、私を構成していた世界の一部がもぎ取られたような、ぽっかりと穴が開いたような喪失感がある。あの人はかけがえのない一部だったのだなとか、「突然大切な人を失う衝撃」とはこういう感じなのだなとか、今まで感じたことがなかったタイプの喪失感を新鮮な気持ちでしみじみと観察している。