「9souls」at 日田シネマテーク・リベルテ(日田)

 dipがサントラを手掛けることが多い関係で豊田作品は目に触れることが多い。その中でも「9souls」は是非一度観たいと思っていた。

「9人の脱走犯が富士山の麓にある隠し金を探しに行く」なんて、設定だけでもう胸がときめく。執拗に追走してくる警察から逃げ隠れしながら富士山の麓を目指す道程、脱走犯各々の人生と犯した罪に対する認識、隠し金を見つけた後のこと。 観る前からどのように描かれるのか気になるテーマがもうこれだけ挙がる。ましてや、豊田監督といえば「苦闘する男達の痛みを描くことを基調とした作品」という評価だし、粗暴で刹那的、絶望的な男のドラマが見られるでしょう! とワクワクしていた。
 が、実際観てみると随分印象が違っていた。ド派手な赤いキャンピングカーに乗って強盗や窃盗を繰り返しながら9人まとめて逃げているのに、警察が追ってくる様子が全然ない。強盗に入った店では駄菓子や子どもの玩具を盗んでくる。被害者は通報しろよ。突然全員で女装して、その異様な風体で田舎の食堂で食事。囚人間の関係もイマイチ納得がいかない*1。あれ……何だか期待していたのと違う……。もっと仲間割れしたり、策謀したり、警察との息詰まるやり取りがあったりするもんじゃないの? 最初は戸惑ったが、「そうか、これはゴリゴリした男のドラマじゃなくて、ファンタジーなんだ!」と認識を改めたら穏やかに見られた。ファンタジーだから、砂地も便所サンダルで疾走できるわけだ。草いきれがこちらまで匂ってきそうな草原を走る車、古い鄙びた田舎の街並みと、夢うつつな音楽がよく合っている*2。井上順とのやりとりやアイアンクローかます店主など、笑った場面がいくつもあったし、寝転んで空を見るシーンのように尻が痒くなるようなメルヘンチックな場面もちらほら。そして、囚人たちの描かれ方は犯罪の必然性が見えず、何とも物足りなかった。人物の生活史がほとんどわからないし、道中の姿を見ていても推測できない。凶悪犯であることが設定としてただくっついているだけのような感じ。最後は希望が垣間見えるような終わり方だったが、なんかファンタジーが鼻について、感慨と苦笑いと半々な心持ち。
 荒れ方が全然足りんわ! 血まみれになったら陰惨ってもんじゃないぞ。もっと殺伐として、救いがないどん底まで叩き落とされた後だったら、あのラストの捉え方ももうちょっと光っただろうけどなー、何だよ浅いな大したことなかったなー、というのが正直な感想。観る前の期待が大き過ぎたのかもしれないが、どんだけ荒んだ内容を期待していたのか自分! 心の茨が育ち過ぎているんだろうか。終了後に貰ったチラシを観て「破滅のメルヘン」というキャッチコピーがついていたのに気づき、ファンタジーと思っていたが、なるほどメルヘンだったか、と納得。

日田シネマテークというところ

 おしゃれ雑貨のロビー販売、カフェ調の内装といい、ciemaと造りはよく似ている。終演後ロビーをぶらついているとスタッフから声をかけられたので、この映画を上映してくれたことへの感謝を伝える。ミニシアターがバタバタ閉館している昨今、こんな田舎で大手配給でない映画を上映することはそれだけで大変なことだ。私が見た上映回も客3人しかいなかったしな……。本当に頑張って欲しい。

*1:特に原田芳雄のリーダーに何故他の囚人たちが従うのかよくわからなかった。

*2:他の場面では気づかなかったが、エンディングテーマの「Bend your head」はヤマジの声がいやに薄っぺらかった。音域を削ったのか? 再生機器の問題か?

ナイン・ソウルズ

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