裁縫材料店はパンクである

 話は昨日に遡る。
 袴に合わせる髪飾りを探して市内中を走り回ったのだが、とうとう気に入ったものは見つけられなかった。最近流行りらしい大振りの花飾りは馬鹿みたいで好きになれないかった。それに、花のモチーフがバラや牡丹ばかりなのだ。これでは袴の柄(桜)に合わない。袴は桜、頭はバラなんて、あまりにも無節操で耐えられない。一体どうしたものか困り果てて田端先輩(着物好き)に相談したところ、リボンにしたらと言う。裁縫材料店に行けばリボンを売っているから、それにしてはどうかということだった。なるほど。ここまでが昨日の話。
 そこで、本日近隣で最も規模の大きい裁縫材料店に私は来たのである。平日の午前中、店内には3、4人ほどの入り。沈思黙考の末、太さや生地も様々なリボンの中から気に入った一本を選び出した。しかし、セットした髪にリボンを結びつけると、蝶結びの部分が垂れ下がってしまう。しっかり蝶結びの形が出ている方がいい。それに、袴がわりと派手なので、リボンももう少し派手にしないと全体のバランスが取れないだろう。ちょっと桜のモチーフなんかついてたらアクセントになっていいと思った。
 リボンを蝶結びにしてくれないかなーと思い、店員に相談してみる。
私「あの、リボンを蝶結びの形にしたいんですけど」
店員「自分でしたらいいじゃないですか」
ほらっ、こうしてこうして、と大体の仕方を教えてくれる店員。これで後ろにバレッタをつけたら良いとのこと。なるほど。
私「で、リボンに桜のモチーフもつけたいんですけど、何かありません?」
店員「自分で作ったらいいじゃないですか」
下で売っている造花を切ってUピンにつければ良いとのこと。なるほど。ということで、リボンとバレッタ、桜の造花を2種類買って帰宅。
 今回店に行ってみて、「こうしたい」と自分の希望を伝える度に、店員が「自分で作ったらいいじゃないですか」と言うのが衝撃であった。正直、自分で作るという発想はほぼゼロだったので、店員の発言は思わぬ選択肢の提示というか、結構目から鱗であった。そうか、作ればいいのか。
 裁縫材料店は花や布に囲まれて客は初老の女性ばかりで、まるでパンクとは無縁の世界に見える。しかし気に入ったものがないなら自分で作り出せばいい(それが当たり前だ)、というのはパンクの発想だよなあ。そうか裁縫材料店とはパンクだったんだな。と妙に感心しながら帰宅。