ふちがみとふなと at ライブインジャストJST(久留米)

 久留米でふちがみとふなとが見られるなんて!と喜んでいたのだが、前売りを買おうとお店に行くと開いていない。む。電話すると「お客様の都合により……」とアナウンスが流れるのみで繋がらない。むむ? どうなってんだこの店は。どうやって前売りを買えば良いんだ?と思っているうちにライヴ当日になってしまった。渋々当日料金でチケットを買おうとすると「前売り料金で入場できます」とのこと。電話が止められていたのは、主催者側にも思いがけないアクシデントだったらしい。なんだー。

ライブインジャストJSTというところ

 存在を全く知らなかったお店。オーナーはフラダンス衣装のお店も手がけているらしく、中はハイビスカスのモチーフがいっぱい。器材が沢山積まれたままになっているステージの前も、ハイビスカスやアンスリウムの造花で飾られている。床が普通のオフィスの床材だったり、蛍光灯の白々した明かりに布をかぶせて雰囲気を出そうとしているあたり、無味乾燥なビルの一室をライヴスペースにしましたという様子で、何だか文化祭の飾り付けを施された教室を連想させた。しかしフロア一面に置かれたソファは快適だし、ビールはジョッキ一杯になみなみ注がれてやってきた*1ので、全て良しということにする。
 客は30人弱くらいだったか。ただでさえ人が集まりにくいであろう郊外でのライヴ、しかも全然宣伝打ってないのによくこれだけ客が集まったものだと意外に思っていたのだけど、どうも付き合いでやって来たらしい様子の中高年男性が半分〜3分の1位いるようであった。まあそうだろうねえ。久しぶりにコッテコテの筑後弁を沢山聞く。

世界は美しい

 開演時刻を20分ほど経過したところで開始。曲間ごとにふちがみさんのMCが入る。それによると

  • 今年、発心コンサートに出演したのがきっかけで今回の公演を行うことになったらしい。
  • 実は以前にも何回か久留米でライヴしたことがあるらしい。初めて来た時はブラッカブロッコで演奏したとか。ブラッカブロッコなら、彼らにドハマりだっただろうなあと思っていたので、思わず唸ってしまう。見たかったなあ。
  • もう20年くらいこのコンビで活動しているらしい。
  • 1曲目に演奏された「ふなとベーカリー」、それから「ロール」は彼らのオリジナルではなくて、三味線弾き語りの人がふちふなのために作った曲らしい。オリジナルだとばかり思ってた!
  • ふちがみさんが持っていた絶妙にいびつな形のタンバリンは、ケニアで購入したものらしい。
  • ふなとさんはアルバムを出したらしい。ふちがみさんが如何によく出来たアルバムであるかを丁寧に説明した後で「今日は持ってこなかった」ことが判明。「ええ!?」と声を上げるふちがみさんに「明後日(天神での公演)には持ってくる」と小さな声で説明するふなとさんはコントラバスの後ろにすっかり隠れてしまっており、コントラバスのネックを支える手だけがステージからは見えていた。で、その手でばつが悪そうにちょんちょんとネックをつついているのが何だか可愛らしかった。
  • 「訳をたずねてはいけない たずねたらきっと泣いてしまうから ただ見つめていよう そしたら愛されていることがわかるだろう」という非常にインパクトの強い言葉を持つ歌は、映画「小さな恋のメロディ」の最後の曲にふちがみさんが詞をつけた歌らしい。

 この人たちの歌は「地に足着いた、小さき者に対する慈しみの視線*2」が感じられるのが非常に印象的で好ましい。また、歌から想起されるのは、普段の生活の美しさ*3と愛おしさ。夕方の商店街や、夜道を歩いている時に見上げた月、朝の空、「綺麗だな、そのうち私はこの時を愛しく思い出すことがあるんだろうか?」と思った風景や感覚が、ゆっくり蘇ってくる。でも、この人たちの歌は湿度が低いので生々しい感じにならないし感傷も少なめ。湿度が高いのも好きなんだけど、低いと上品に聞こえますな。
 子どもの頃ふちがみさんが大好きだったというフィンガー5(Jackson5)のカヴァー、服を後ろ前に着たまま一日過ごしてしまったという「後ろ前」*4、休憩を一度挟んでライヴは進んでいく。後半になると最後列のおいさん達はすっかり出来上がっており、ふなとさんがTシャツを替えてきたのを見て「おなごは(服を)替えてきたんか? 替えてないのか。下着(を替えてきたん)やろ、グハハ」とヤジ。酔っ払いですな。連れて来られていた3-4歳くらいの子どもは曲間の絶妙なタイミングで「ねー、もう帰ろー?」と親に訴えてるし*5、普段ライヴではあまり見かけない人々に遭遇してなかなか新鮮ではあった。
 最後から2曲目、クリスマスイブの歌で和んだ空気になったところへ「この雰囲気を台無しにして終わります」と宣言して始まった「バラバラ」。スラップスティックでシンプルな歌の展開、マイクスタンドをロッカーのように持ち体を前後に揺すって歌うふちがみさんに、客席、特に後ろのおいさん達が笑い大盛り上がり。アンコール一曲*6では納得せず、「smoke on the waterやって!」とおいさんから声がかかる。するとふちがみさん「そんなバンドちゃうねんけどな」と言いつつ、おもむろにピアニカに口を当てて激しくsmoke on the water! ギャー! わははは! 歌ってるし。一緒に合唱するおいさんも出現。まさかこんな展開があると思わなかったなあ。多分今日ほど喧しい酔っ払いどもに感謝したことはあるまい。
 笑いや歌の余韻を抱いてニヤニヤしながら、月明かりの下を自転車に乗って帰った。

*1:ライブハウスでこれは珍しい!

*2:大人ならば小さき者に対しこのような視線を持ちたいものだと思う。しかし今日聴いているうちに、この「小さき者」とは私から見た幼い者だけではなく、私自身のことでもあるのだなあとふと思った。私が思ったこと一部しかまだ説明できないが、神様のことを少し考えた。

*3:友部正人の「朝は詩人」という歌も素晴らしく美しく、しみじみ噛みしめるように聴いた。

*4:後ろのおいさん達に大ウケだった。

*5:夜遅い時間だったし、彼らには途中から負担だったと思う。

*6:007のテーマをスキャットで歌ってた。