『Lunacy』 

 シュヴァンクマイエル新作。公開初日に観に行ったら、結構人が来てた。7割くらい客席が埋まっているシネテリエに来たのは初めてかも。内容に触れているので、これから見る予定の方はこの先読まぬが無難です。
 映画冒頭でスクリーンにシュヴァンクマイエルが登場。「この映画はホラー映画です。ホラーならではの後味の悪さをお見せします」というようなことを話していて、思わずニヤリ。しかし話の筋自体は非常にシンプルだったので途中からオチが読めてしまい、後味の悪さはあんまり感じられなかった。むしろ、精神病院が舞台ということで、つい色々考え込んでしまって後味が悪い思いをした。
 ちょっと嫌な予感はしていたのだが、そんなんねえよ!と脊髄反射的に反論しそうになる場面がちょこちょこあって困った*1。逆に、「それ、客にはちょっとしたユーモアに映るだろうけどマジでやってっから」というエピソード*2に苦笑い。「心身のバランスをとるために、精神症状の激しい者には肉体的に激しい処置を与える」という言説が出てきて、勿論映画の中で行われていたような「激しい処置」はないのだけど、この言説って、往々にして実際に見かける「症状を抑えるために飲んだ薬が強過ぎて眠りっぱなし」を風刺してるのかしらと思ったりして、複雑な気分になる。主人公が翌朝病院を出るつもりで荷造りをして眠る場面なんかも、重度の痴呆の方がしているのをよく見かけるので、つい重ね合わせて見てしまい、しんどくなってしまった。
 楽しかったのは侯爵と侍従と主人公のやり取りか。侯爵の血色の良さ、復活のエピソード、ひげそりと食事の場面は見ていて気分が良かった。あとお肉がえらい美味しそうでした。
 しかし、「アリス」や「ファウスト」を観た時は息もつかせぬ展開と、まさに「悪夢のような」不気味だけど惹きつけられて目を離せない映像とで本当に面白かったのだけど、前作の「オテサーネク」それからこの「ルナシー」は前者二作の面白さに及ばない感がどうしても否めない……。ウ―――ム。 

*1:私自身も精神病院で働いたことはないので、本当のところどうなのかはわからないが。

*2:柱に頭を打ち付ける行為がある患者に対応するため、柱に保護材を巻き付けて頭を打ち付けても怪我をしないで済むようにするエピソードがあるのだが、あれと似たようなことを実際に勤務先でしている。