豊田道倫「東京の恋人」レコ発ライヴ at nest(渋谷)

 この人の使う言葉はいつも気になるけど、音を聴くといつもイマイチ盛り上がらない。
 音が気に入らないのにライヴに行くなんて、しかもこの人のライヴは3時間ザラのようだから、結構しんどいかもよ? と、自ら好き好んでチケット取ったくせに、行く前からいきなりダルダルやる気なくてテンション低いワタクシ。でも取っちゃったしな。ていうか何で取っちゃったんだよ私。いくら川本真琴がゲストで出るといっても、あんたは「あの人は今」的に興味があるだけでしょうが! と内心ぐちぐち言いっぱなし。
 しかし実際に観てみると、これが凄く良かった。約3時間半立ちっぱなしだったので足がズキズキするが、それでも行って良かった。
 「東京で何してんねん」からスタート。初めて観る豊田さんは思っていたよりも背が低くて太っていて、もっさい格好をしていた。そして強く歌う度に唾が飛沫になってブワッと飛ぶのがよく見えて、ウワー凄いねえ〜と妙に感心する。この時は私もまだ平静だった。しかし次の曲「実験の夜、発見の朝の1曲目」でちょっとやられてしまう。この曲は好きなんだけどもう10年近く前の曲だ。まさか新作のレコ発ライヴで演奏されるとは思っていなかったので、不意をつかれて固まってしまう。
 普通レコ発ライヴといったら新作からの曲をどんどんやっていくものでは? と思っているとMC。今日は三部構成で、ドラムをサポートに入れた今までの二曲で一部は終わり、二部は旧作からの曲中心に一人で弾き語り、三部はゲストも迎えて大人数で新作の曲を演るとのこと。そして私は第二部で完全にやられてしまった。音に乗って入ってくる言葉、描かれる風景がいちいち応えてしまってボロ泣き、どうにも止まらず。「言葉はいいけど歌になると興ざめ」と思っていたけど、ちゃんと歌として入ってくるんじゃん! あと、弾き語りというスタイルが入りやすかったんだろう。あまりノイズっぽい音やギターがぎゅわんぎゅわん鳴るこの人の曲を私はあまり好きではないから。
 この人のうたは、凄く些細な風景や一瞬を取り上げるんだけど、描かれ方が生々しくてこちらのイメージ喚起が鮮烈なのですよ。高円寺の歌や犬買ってきた歌や、女の乳首噛んだら血がにじんでちょっと申し訳なく思った歌は、初めて聴いたのにいっぺんで覚えてしまったなあ。私は普段の通り道や部屋や好きな人がちょっと視線をそらした時や、なんかそういう些細なつまらないものをいとおしく思うことが沢山あって、この人の歌からそれら私のいとおしいものたちがどんどん喚起されて涙が止まらなかった。何故喚起されると泣いてしまうのか、そこはあまりはっきりしないけど。
 1曲1曲の間にMCが入り、客がその度に笑う。客もMCに慣れているようで、そのやりとりの様子に噂で聞くさだまさしのコンサートを思い出したりする。豊田さんは新作の売れ行きや扱われ方を気にしているようで、レコード屋での扱いの不満を言ったり買った人がどのくらいいるか、客に拍手をさせたりしていた。何故こんなに喋るのかねえと思っていたが、MCは次に演る曲の前フリや説明らしい。最初は気になったが、次第に慣れた。
 私が持っているこの人のイメージは、「泣きはらした後で外に出ると、昼からずっと降り続いていた雨は上がっていて、ぬるい風が吹く初秋の新宿」というもので、「雨」と「新宿」のイメージが物凄く強い。何故こんなイメージがついてしまったのかよくわからなかったのだけど、今回聴いて歌に瀕回に雨の場面が出てくることに気がついた。多分それでなんだろう。新宿のイメージは何故ついたのかわからないけど、第二部と第三部の間に入った休憩の映像では新宿のあちこちの風景を流していて、私の持っているイメージはあながち勝手につけたイメージでもないのだなと思った。
 第三部になると多彩なゲストに2回のお色直し*1と、一気にお祭りムードに。川本真琴は小さくて細くて、時折フルートも吹いていた。曽我部恵一が出てきたのには驚いたなあ。意外と背が低いのと太っていたのにも驚いた*2。涙は引いたが、私はもうすっかり豊田ペースに引き込まれてしまっていた。「海を知らない小鳥」とか、きれいな曲だったなあ。
 総じて、凄く「してやられた!」という感のあるライヴだった。次は座ってゆっくり見たいなあ*3。CDだとほとんど盛り上がらないのに、ライブだと感じ方が異なるのかしら?と思い、「映像集Ⅱ」を購入して帰った。
 あ、あと「東京の恋人」のジャケ写真は凄く清廉で素敵だと思う。「東京の恋人」というタイトルそのものも好き。

東京の恋人

東京の恋人

 最後にセットリストなど。

12/29 O-Nest 豊田道倫『東京の恋人』発売記念コンサート

1)東京で何してんねん
2)僕は間違っていた

3)UFOキャッチャー
4)愛と歩いて、町を行く
5)八月十九日
6)キリスト教病院
7)高円寺
8)仕事
9)最後のチュー
10)彼
11)うどんが食べたいな
12)LIFE
13)アルバ
14)雨のラブホテル
15)DOG DREAM

16)うなぎデート
17)恋ケ窪
18)いい湯〜YOU〜だな
19)RIVER
20)長い手紙
21)グッバイ・メロディー
22)東京の恋人
23)新宿
24)35の夜

〜アンコール〜
25)悪い夏
26)ベンチ
27)FOREVER LOVE
28)移動遊園地
29)深夜放送
30)夜のラヴ
31)宇宙旅行
32)海を知らない小鳥

久下惠生:Dr(1,2,16〜24,27〜31)
上田ケンジ:Bass(16〜23,27,28)
DR.kYon:Keyboard(16〜23,27,28)
宇波拓:Guitar&Mac(16〜23,27,28)
向島ゆり子:Violin(16〜23,27,28)
川本真琴:Vocal(21〜23)
曽我部恵一:A.Guitar(16,27)
佐内正史:Cut(15)

内田直之PA

カンパニー松尾:撮影、DVD上映

                 豊田道倫公式HPより)

*1:学ラン→「東京の恋人」ジャケで着ていたようなジャケット+白シャツ

*2:豊田さんと二人で並ぶと何だか似ていて笑えた。

*3:ちょっと足腰が痛くなってて、延々続くアンコール時はいつ終わるのか予想がつかないこともあり、ちょっと苦痛だった。