神の住まう土地と文化

 今日まで島根へ出張だった。今夏の集中豪雨で山陰本線が運休中のため、仕事先まで車で移動。運転手さんは話好きな地元のおいさんで、往復道中に色々な話を聞く。近隣の美味しいお店、名産物、観光名所、おいさんの昔の仕事から家族のことまで。その中で最も興味深かったのは「御神楽が来る」話だった。

  • 色々な行事に御神楽が呼ばれる。行事の種類は結婚式、地元の観光祭り、学園祭、はたまた同窓会(!)まで。
  • 呼ばれる定番の神様は恵比寿様。次に大蛇(オロチ)。さすがヤマタノオロチ伝説のある土地。
  • 結婚式でも恵比寿様。舞を舞ってもらった後、恵比寿様の持つ竿の先に御祝儀をぶら下げてあげるらしい。御祝儀は裸銭でつけてあげるらしい。
  • 地元の人が大阪や広島など遠方に嫁ぐ場合、依頼すれば遠方の結婚式場までやってきて御神楽を舞ってくれるらしい。
  • 御神楽は地元の保存会のような集まりがあり、そこへ依頼すると来てくれるらしい。1回1人につき30000円程度で呼べるらしい。この集まりには若者もおり、とりあえず後継者不足で悩んでいる様子はなさそうだった。また、子供会でも御神楽を行うらしい。小さい子供がヨタヨタと神楽を舞う姿はとても可愛いものらしい。
  • おいさん(60代後半?)が子どもの頃は、豊作の感謝として奉納する御神楽の行事があり、これは舞が夜通し奉納されるものだったらしい。しかし最近は勤め人が多いので、翌日の仕事に支障が出るからと23時頃には終えてしまうらしい。
  • 同窓会に御神楽を呼んだ時は、舞のクライマックス(オロチの首を今まさに落とさんとする場面とか)で「ちょっとそのまま待って! 写真撮るから!」と言うと、待ってシャッターチャンスをちゃんと作ってくれたらしい。

 「同窓会に御神楽を呼ぶ」というのが物凄く不思議で仕方なかったのだが、おいさん曰く「同窓会のために久しぶりに帰郷した友人がとても喜ぶ」「(同級生の)下手なカラオケを聞いたりするより御神楽を見る方が余程楽しい」というのが理由らしい。御神楽ってもっと厳かで神秘的なものと思っていたが、御神楽のこの親しまれ具合。ここでの御神楽は私が考えていたのとは全く違うのだと知る。職場(高齢者施設)での炭坑節みたいなものか?*1

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 この移動時、かねてから行きたいと思っていた美術館の前を通った。「ここの美術館、一度行ってみたいんですよ〜」と言った私に、おいさんは「ここは裸の女の人の写真とかありますが……」と言いにくそうに返事をした。
裸の女の人の写真がある? だから? それで?(°д°)
 その時はおいさんが何故言いにくそうにしたのかよくわからなかった。後から、「芸術作品」はおいさんにとって「裸の女の人の写真」なのだと気づいて、衝撃を受けた次第。しかしこうしておいさんの話を振り返るに、別にここが民度の低い、文化不毛の土地だということではなくて、単にこの手の「芸術作品」がおいさんに根付いてないだけなのだと気がつく*2。おいさんの話に出てくる御神楽の馴染み振りと愛されぶり、これは生きた文化そのものだもんなあ。 

*1:炭坑節を歌って踊ると、とりあえず何はなくとも利用者は盛り上がる。

*2:これを書いていて思い出したのだけど、今年のはじめ「ダビデ像を設置したら『公園に裸体の像を置くなんて!』と批判が殺到した」と新聞記事になったのは同じ島根県の町だった。