排痰と吉本新喜劇

 「息を吹く」動作を知らない子どもに、タンポポの綿毛とか蝋燭の炎とか息を吹きかける物を提示し「『フーッ』ってして!」と声をかけたら棒読みで「ふー」と言われたことはないだろうか。私はあります。
 職場(高齢者施設)にて。肺炎を起こしているが割と元気な96歳男性の喉がゴロゴロしていた。痰が絡んでいるので看護師さんが吸引しようとしたが、上手く行かない。自力で排痰してくれるのが一番良いんだけど。そこで看護師さん、彼に向かって「『エヘンッ!』ってして下さい」と咳をするように一生懸命促した。彼も応えて真顔で
「あっはーん!」
96歳男子が洋ピンの喘ぎ声のような、しかしまるで情緒のこもらない棒読みをしているのが物凄く可笑しくて、ステーションにいた皆肩を震わせた。
「違います、『エヘンッ!』って!」 
「あっはーん!」
このやりとりの繰り返しを見ているうちに堪えきれなくなり、全員腹を抱えて笑い出してしまった。全員が机に突っ伏して笑っている姿を見ることなんてまず無いので、チャーリー浜の「ごめんくさい」で皆がズッコケるシーンを地で行ってしまったような。そして勿論、私もズッコケたうちの一人。気づいたら96歳男子も笑ってた。