女優と役割と高齢者

 同輩と1年ぶりに会う。この2年の間に彼女は結婚→妊娠→出産とライフイベントを立て続けに経験し、自分とは随分価値観も変わっただろうと少々警戒していたのだが*1、特に何もなく和やかに過ごす。メガネ購入にもつきあってもらい、だらだらとお茶しておしゃべり。家族が増えると、気を遣う人間関係も増えて大変らしい。それはそうだろう。で、家庭生活を円滑に進めるためのコツとして「女優になったつもりで演じなさい」と母親から言われたらしい。「母や妻の役割を務める」ことをそう表現したのだろうと思い、なるほどと思うことしきり。そして高齢になると母や妻の役割は終わり、「女優」も終わる。役割のなくなった素の自分を振り返り「私」とは何だったのかを検証することになるのだろう。
 生後まもなく生き別れた実母のことをずっとこだわり続けている90代の女性に会ったことがある。もう100年近く前のこと、しかも全く記憶に残っていないであろう実母のことをこだわり続ける心境が私にはよくわからなかった。「この歳になったからこそ(こだわっているの)よ」と言われて(そんなものかなあ)と思っていた。しかし今回の件で少しわかったような気がする。実母は「私」から切り離せないもので、今の歳になって「私」とは何だったのか考えるようになったからこそ、拘るようになったのだろうな、と。 

*1:育児関係のことは私は知らないことが多いので、迂闊な発言が地雷になることを警戒していた。