後継ぎ犬を求めて・犬の幸福と仕事

 実家の犬が死に、両親が新しい犬を探し始めた。我が家の歴代犬たちは近所で生まれたのを貰ってきたのばっかりで、買った犬はいない。雑種ばかりで、血統に対するこだわりもない。そこで、ネットを使えない両親に代わり、子どもたちが「いつでも里親募集中」というサイトで犬を探すことにしたのだが、父の提示した条件は「若い、できれば子犬」で、「未去勢のオス」というものだった。若い(幼い)方が飼い主によくなつくからいい。番犬として飼うので、気が強い方がいい。だから未去勢のオスがいい。という理屈のようだった*1
 先日死んだ犬は、以前医療的処置を受ける時、医師を見た際に興奮して父を噛み、それでも処置されると大小便を失禁したらしい*2。ということは、攻撃で噛んだというより、恐怖の極致で防衛のために噛んだってことか……。気の小さい犬だったもんな。よく鳴く犬だったが、一度「今日は寒いから」と玄関内に入れられていた時、まったく吠えることなく幸せそうにトロンとして丸くなっているのを見た。この犬と殆ど接触がない私にもわかるほど、犬が安心しきっている空気を放出しているのを見て、この犬は番犬として外にいる時、随分不安な思いで過ごしているのだろうなと思った。
 番犬という仕事は犬の不安を利用して犬を働かせていることなのかと思うと、悪事の片棒担いでいるような心持ちになる。また、「里親募集中」サイトで犬を紹介する文面には「吠えません」「人にも犬にもフレンドリー」が犬の魅力を示す言葉としてしょっちゅう出てくるが、私たちはそれらの言葉と対照的な条件「よく吠える」「他者に対し警戒心を持つ」犬を探し求めているわけで、時代の流れから取り残された犬探しだなあとしみじみ。
 

*1:理屈としては相当疑問が残るが、父はそう信じているようなので私は触れないことにしている。

*2:ちなみに今回の処置時も、衰弱しているにもかかわらず父を噛んだらしい。