「毒ガス戦と日本軍」吉見義明

 先日研修に行った際「老い」に関する哲学書みたいのんがいくつか出ていることを知り、図書館に探しに行ったのだが、気がついたらまたこの類の本を借りていた。なかなか毒ガスから離れられませんな。
 結構分厚い本なのだが、極めて読み易く・わかりやすくてダレることなく順調に読みきった。あちこちに出している論文を1冊にまとめたような本だと思ったのだが、実際様々な雑誌に寄稿した記事を一冊にまとめた本だったらしい。
 日本軍は毒ガスを使わなかったということにしておかないとまずい様々な事情*1があったために「今だからようやく言えるようになった」話として日本軍が中国に対して毒ガスを使用したこと・どのように使用したか・軍はどのように毒ガスを捉えていたか・などが資料の裏づけをもって説明されるのでフラストレーションもなく読めた*2
 やっぱさー、あれだけ組織的に作ってて、既に効果も(第一次世界大戦で)確認済みの兵器なのに「使わなかった」って変だもんなー、そして国とか政府って最も効率良く目的を果たせる方法を選択するのであって、人道がどうとか倫理がどうというのはあくまで建前だなー、とか妙に感心。日本の粘り強い抵抗に業を煮やしたアメリカが、原爆が完成していなかったら、日本の大都市部に毒ガスを撒くつもりだった、という話は怖かった。
 重要書類(機密書類)が古本屋から発掘されて研究が進んだ*3、という件はちょっとカルチャーショックというか、分野が違えばこんなに研究スタイルも違うんだ!と驚いた。あと、体験者達がどんどん亡くなり、戦争の恐怖が記憶にない者たちが増えた今だからこそ言える話がある、ということがあることも知らなかった。確かにこの本で初めて読んだ話が多かったもんな。このテーマの歴史物は一通り読んだ、と思っても新しい本が出たら読んでみる方が良いのですね。
 あと、北九州に毒ガスの貯蔵庫があったという話は知っていたのだが、どうも貯蔵庫を含む施設跡が1996年時点までは残っていたらしい(写真あり)。うわー見たい! 今も残ってんのかなー? って一生懸命調べた結果、残っているとすれば曾根演習場敷地内だろう、というところまでわかったのだが演習場に部外者が(安全に)入る機会などはあるんだろうか。

毒ガス戦と日本軍

毒ガス戦と日本軍

*1:条約批准の問題とか

*2:ソースを示さない本を読んでると時々イライラするのだ。

*3:731部隊の存在について記した書類も古本屋で見つかったりしてるらしい。