アジアフォーカス福岡映画祭2005に行ってきた

一日に3本映画観た。多分今まで生きてきた中で一番映画を観た日だと思う。
 今までアジア映画といえば「ムトゥ踊るマハラジャ」くらいしか観たことなかったんだが、文化や歴史背景に関する知識ほぼゼロで観ると、ピンとこないシーンが沢山あるなと感じた*1

[映画] ようこそ、羊さま(中国)※ネタバレ注意。

 貧しい農民のおいさんが、高価な外国産羊の養育と繁殖に携わることになり、奮闘する話。
 農村が舞台なのに、草一本生えてない荒地ばかり映るのはどうしてなんだい。と思ったら、そういう寒冷地なので、農業成績が芳しくなく、代わりに畜産に力を入れようという流れだったらしい。車が走る度にもうもうたる砂埃がたつし、主人公のおいさんが耕す畑はただの荒地だし、おいさんの家は土壁で、塀などはまさに泥で塗り固めたとしか言い様がない塀だし……安部公房の「砂の女」を読んだ時のような、見ているだけで口の中がじゃりじゃりしてくる感覚にずっと悩まされ続けた。
 羊に食べさせる草一本生えている様子がない土地なのに、羊は良い草と穀類しか食べないので、おいさんは人間も普段食べられない高価な食品類*2を必死で羊に買い与えていた。痩せた土地に合った産業として外国産羊の繁殖を根付かせる目的で、モデルケースとしておいさんに羊を飼わせ始めたのに、そんなに費用のかかる(無理してる)飼育が根付くわけないじゃん。こんな飼育、本末転倒もいいところだよ。あほくさ。と思って観ていたが、面子や体面を保つとか義理とかが障害となって、本来の目的がなくなってしまうことってよくあることのようにも思うから、何とも複雑な気分に。劇的なことは一切起こらず、淡々とストーリーは進んでいく。おいさんは「老夫」と言われていたが*3、まだ40代くらいの印象だった。あと、男性は会うとすぐ煙草のやりとりをし始めるのが印象的だった。あれは間違いなく儀礼的な意味を含んでいるはずで、最初は「目上・または尊敬すべき人物」に対する敬意の行為かと思っていたのだが、他の羊飼いとおいさんが喧嘩をした後、その羊飼いにも煙草を与えていたので、どういう意味の行為なのかよくわからなくなった。「敵意はない」ことを示す、握手くらいの日常的なやりとりのなんだろうか?
 劇的なことは一切起こらなかったのに、羊を取り上げられたおいさん夫婦が、盗む形で羊を連れ出す最後の展開だけが納得いかなかった。そんなことをしたら村に住めなくなるばかりか、犯罪に問われることになるのでは? また、住環境から家計まであらゆる面で負担だった羊達を取り返しに行った理由とは何なのか? 連れ出した結果負うリスクと連れ出す理由を天秤にかけたら、どう考えても割に合わないと思うのだけど*4。何だか訳がわからないというか、釈然としない映画だった。

[映画] 三池 〜終わらない炭鉱の物語〜 (日本)

 三池炭坑の始まりから終焉までに関するドキュメンタリー。
 音楽がうるさく感じられたのが辛かったのと*5、監督の繰り返し登場する「この映画を撮らなければと思った」理由の感傷っぽさが鼻について鬱陶しかった。その他100分の中に強制労働の問題から三池争議、炭塵爆発とその後の補償問題まで様々な内容を盛り込んでいるので、情報量が多過ぎて内容がきちんと捉えにくかったりと、色々不満な点はあったが、実際に炭鉱に関わった人々のインタビューが圧巻だった。
 とにかくインタビューしている人の多様さが尋常ではない。囚人労働に行く人々をよく見かけたという人に始まって、実際に業務に就いていた炭鉱マン、炭鉱マンを裏で支えた主婦、三池争議の際の会社側の人、旧労組の人、新労組の人、強制労働に駆り出された中国人韓国人そして白人捕虜(!)まで。どの人の証言も、かつての自分の行動は生きるために必死にした結果であるという迫力があって、胸に応えるものがあった。
話したくない話もあったろうし、話す準備はあっても、東京からやって来たどこの何ともわからない人に話すにはためらわれる話もあったはず。証言者を見つけてくるのだって、遠方からやって来た人がするのは困難なはずだ。これはヂモティの相当な協力があっただろうなあと思ったら、やはりそうだったようで、石炭記念館の方の多大な尽力があったそうだ。石炭記念館の方達はこの映画を完成させるために実に情熱的に働いたそうで、予算を取るために企画書と根回しを3年続けたそうだ。このエピソードで「人が自分の研究の価値を認めてくれるのには10年かかる。だから継続することが大事なのよ」という師匠の言葉が脳裏をよぎった。どこの世界でも自分のしていることを簡単にあきらめないことは大事なのねえと、大いに励みになったのだった。あきらめるなと言うのは簡単だけど、自分のしていることを信じて情熱を持ち続けるのってしんどいからねええ。
 炭鉱関連の資料に触れるといつも思うのだが、炭鉱は炭鉱であって、生きているのは人なんじゃないかと思う。今回も最後に「炭鉱は生きている」とメッセージが出たが、炭鉱ではなくて、人が生き続けているのだとやっぱり思った。

*1:中国映画でやたらに煙草を与えるシーンが多いのとか、体面を保つために本末転倒になっているのとか、もう本当に疑問。

*2:燕麦、蕎麦の葉、大豆、卵など。ちなみにおいさんはじゃがいもばかり食べていた。

*3:おいさんは奥さんにまで「おいぼれ!」と罵られていた。

*4:一晩寝たら、ラストのあの行動は、散々えらいさんに振り回されたおいさん夫婦の最後で唯一の抵抗だったのかな?とも思った。

*5:無音って無理なんですかね? 例えば、今は使われていない発電所の映像をしばらく流す時などは風の音だけとか虫の声だけとかにしてくれると、穏やかに観られるんだけど。「ようこそ、羊さま」もそうだけど、音楽で気分ぶち壊しにされる感じでしんどかった。