「介護もアート」 折元立身

 バイトの合間に図書館に立ち寄り、時間つぶしに何か読もうと物色していたら見つけたのがこの本。まずタイトルの意味がパッと見てわからないあたりから惹かれる。表紙の婆ちゃんの顔もすげえ。下顎の筋肉が弱くなって口が開きっぱなし、いかにも痴呆という感じの表情。よく見るぞこういう顔。
 介護もアート? いい顔(根本敬)ってこと? と思いつつページを開くと、デカい緑の靴を履いている婆ちゃんの写真。次いで、首から車のタイヤを下げた婆ちゃん3人の写真。更に、顔がパンになっている人に肩を抱かれている婆ちゃんの写真。
 どの写真も、婆ちゃん(達)が仏頂面だったり神妙な顔をしていたり、一つとして笑顔がないのが可笑しい。特に3人の婆ちゃん達が神妙な顔をして、首からタイヤを下げている写真なんかはシュールで可笑しい。
 表紙の婆ちゃんは筆者の母親で、筆者は母親の介護をするようになってから、母親をモチーフにした作品を作り続けているらしい。婆ちゃんは自分の顔がドアップになって本の表紙になっていたり、家でご飯を食べているところを映像に撮られたりして、嫌じゃないのか? 嫌とは言わないとしても、息子が良い様に言いくるめて(「自分の言うとおりに母さんがしてくれて俺は嬉しい」とか何とか言ってさ)、面白い見世物にしているだけじゃないのか? と胸中複雑であった。しかしドラム缶アートの製作過程における、婆ちゃんの写真を見て、ちょっと胸のもやもやが落ち着いた。婆ちゃんの顔が物凄い真剣だったのだ。何をされているのかはわからないかもしれないけれど、この婆ちゃんは場の雰囲気をかぎとって、場に協力しようとしていることは間違いなさそうだと思ったのだ。必要とされていること、緊張感のある場面で働くこと、結果賞賛を受けること……「アート」と呼ばれているこの一連のヘンなことに関わるのは、彼女にとって悪い結果にはならないだろうと思った。
 他に興味深かったのは、筆者が秋田のグループホームに呼ばれて、3日間でグループホームの入居者を巻き込んだアートパフォーマンスをすることになった顛末。当初は入居者から拒絶を受けた筆者が、本の冒頭で紹介した「大きな靴」を提示したところ、入居者に興味を示されて、実際に皆で履いてみて、踊ったりしているうちにあっという間に入居者に馴染んでしまった。参加型アートの本領発揮なエピソード。筆者の技量に頼るところが大きいところと、スタッフだけでの企画継続は困難そうなところが、施設の企画としては不十分だと思ったけれど、何歳になっても面白いものは喜ばれるし、わくわくするようなものを提示するのは大事なんだなあと思った。仕事でやってると、「面白い」とか「わくわくする」というところを忘れがちになるので、自分の仕事にも気をつけようと思ったところ。

 はまぞうでは出てこなかったので、bk1から。

介護もアート
折元立身パフォーマンスアート
出版 : KTC中央出版
http://www.bk1.co.jp/product/2295037